ポケゼミ報告2015「森を育て活かす-林業体験をとおして考える」

森林育成学分野 准教授 長谷川 尚史


 近年の林業を取り巻く経済環境の悪化は、国土の3分の2を占める森林地域での人口減少や生活基盤の喪失を招き、さらに十分な森林管理を実行する人材、技術不足などが悪化するという悪循環に陥っている。森里海の健全な連環を成立させるためには、環境性だけでなく、森林管理の持続可能性を経済性や社会性の観点からも考え、林業や地域社会の構造についてイノベーションを起こす必要がある。これには森林に関する生態学的知識に加え、資源を有効に活用し地域社会をうまく成立させるための農学、工学、経済学、法学、社会学など、様々な専門分野の知見が求められるため、本セミナーでは日本で伝統的に行われてきた林業作業を体験するとともに、最先端の林業の作業現場を見学し、また山村で暮らす人々と交流を行うことによって、多様な学生に将来の社会像について議論してもらうことを目的に開講している。
 4回目を迎えた本セミナーは、前回につづいて和歌山研究林を拠点として8月24~27日に開催した。本年度のセミナーの参加学生は、法学部1名、工学部1名、農学部2名の1回生、計4名であった(その他、工学部からもう1名が参加する予定であったが、体調不良により欠席)。またTAとして森林育成学分野院生1名が指導を補助した。
 初日朝に京都大学本部を出発し、食料等を購入した後、奈良県吉野町の吉野材センターを訪問し、職員の方に解説していただきながら、吉野林業の歴史や木工製品や製材品市場を見学した。また急遽、伝統的な手作業による樽づくりを続けておられるくりやま樽丸店において、酒樽づくりの現場も見学させていただいた。さらに川上村の清光林業株式会社 山林において昼食をとりながら、小幅員林内路網と260年生スギ人工林の見学を行った。その後、ごまさんスカイタワーに移動し、三興林業株式会社 山林を見学し、夕方に宿舎となる和歌山研究林清水分室に到着した。荷物整理を済ませた後は宿舎にて本セミナーのガイダンスおよび講義を実施した。例年通りの非常に内容の濃い初日となったが、講義時にも参加学生は目を輝かせていた。2日目は和歌山研究林内で下刈り実習およびスギ人工林における間伐プロット、毎木調査を行う予定であったが、開始後30分で強風と雨で作業が危険な状況になり、研究林事務所構内のj.Podに避難した。午後からも予定を変更し、重機倉庫内でチェーンソーの分解実習と、バックホウ操作実習を行った。夕方には風雨が収まったため、高野龍神スカイライン周辺の植生観察を行うとともに、龍神村まで足を伸ばし、山村における観光産業について解説した。毎木調査が実施できなかったが、疑似データを用いて、夜は宿舎で毎木調査のデータ整理と間伐木の選定、間伐前後の蓄積量算出および樹冠投影図の作成等の内業を行った。3日目は天候も回復したため、予定通り間伐木の伐倒、造材、集材の実習を行った。夕方からは和歌山研究林と協定を結んでいるマルカ林業株式会社事務所前にて地域の方との交流会を行った。4日目は朝に清水分室を出発して高野山に向かい、高野山寺領森林組合職員の方の案内により、高野山境内の伝統建築と奥の院の600年生と言われるスギ林分について見学、解説していただいた。京都への帰路の途中、高野山町内で檜皮採取の現場に遭遇し、檜皮など伝統的な森林資源利用が、伝統文化財の保全にも重要であることを解説し、無事に夕方に京都に到着、解散となった。
 当セミナーの開催にあたって訪問先の多くの皆様に多大なご協力をいただいたほか、和歌山研究林職員には準備を含め、多くの協力いただいた。この場をお借りして深くお礼申し上げる。