徳山試験地・檜皮剥皮実験林の15年

森林情報学分野 坂野上 なお

 徳山試験地(山口県周南市)の檜皮剥皮(ひわだはくひ)実験林は、文化財建造物などの屋根葺き材として使われる檜皮の採取が、ヒノキ立木に与える影響を明らかにする目的で1997年に設置されました。98年冬に熟練の原皮師(もとかわし:檜皮採取の専門技能者)が檜皮を採取した後、定期的に伐採しつつ研究が進められましたが、2013年に最後の伐採が行われ、本実験林はその役割を終えました。そこで、実験林の15年間から生まれた研究成果をいくつか紹介します。なお本実験林の設置は本学と北海道大学、東京大学、九州大学との共同研究の一環であり、これらの研究は上記4か所で採取された試験体を用いて行われました。
 まず、檜皮採取はヒノキの直径成長を妨げるのでは?という疑念に答えるために、採取後10年が経過したヒノキを伐採して輪切りにし、採取後の直径成長を計測しました。その結果、檜皮を採取した後も直径成長が停滞することはなく、採取していないヒノキと比較しても、統計的な差はみられませんでした(門松ら2012)。
 しかし仮に成長を阻害しなくても、木材組織に何らかの影響が観察されるのでは?そこで木材組織を光学顕微鏡で観察した結果、採取後再生された木部には障害組織は認められず、組織の密度も非採取木との違いはみられませんでした。採取時にヘラを差し込んだ部位にも、組織の変化はありませんでした。木材組織の成長が不活発な冬季に、熟練の原皮師が、死んだ組織である外樹皮のみを剥ぎ取るため、材質に影響を与えないと考えられました(Utsumi et al. 2006)。
 さらに、檜皮採取によって木部の性質が変化していないかを検討するために、採取木の切片を用いて、木材強度の指標となるヤング率とセルロースミクロフィブリル傾角を計測して非採取木と比較した結果、採取の影響は受けていないという結果が得られました(斎藤ら2015)。
 このように檜皮の採取は、ヒノキの成長、組織、強度それぞれに影響を与えないと考えられます。そしてそれは、伝統的に秋から冬という木材の成長が抑えられる時期に、細心の注意を払いながら採取を行う、原皮師達の高い技術があってこそ、なのです。原皮師の技術の継承、技能者の育成には多々課題がありますが、徳山試験地では、原皮師を目指す若者達の研修の場としてヒノキ林を提供しており、この伝統的技術の継承と発展にも貢献していきたいと考えています。

引用文献
 門松昌彦,山本博一,坂野上なお,古賀信也(2012)檜皮採取がヒノキの直径成長に与える影響.北海道大学演習林研究報告,68(1),39−46.
 Utsumi Y., Koga S., Tashiro N., Yamamoto A., Saito Y., Arima T., Yamamoto H., Kadomatsu M. and Sakanoue N. (2006) The effect of bark decortication for hiwada production on Xylem and phloem formation in Chamaecyparis obtusa . Journal of Wood Science, 52(6), 477−482.
 斎藤幸恵,山本篤志,太田正光,有馬孝禮,内海泰弘,古賀信也,門松昌彦,坂野上なお,山本博一(2015)檜皮採取によりヒノキ材の木部性質は変わるか.木材学会誌,61(1),25−32.

ニュースレター40号 2016年10月 研究ノート