ILASセミナー報告2018「海へ行こう~フィールド調査入門~」

海洋生物環境学分野 助教 小林 志保



 この少人数セミナーは実際にフィールド調査に出かけることにより,沿岸海域に生息する生物とそれらを取り巻く物理・化学環境に対する理解を深め,陸上とは異なる生物環境を実感することを目的として行うもので,北部構内での講義(観測計画作成を含む),大阪湾における生物採取と環境観測,生物の観察とデータ解析とで構成される。開講から終了までの期間を通して,工学部2名,農学部2名の合計4名(男性3名,女性1名)が参加した。また現地観測には,海洋生物環境学分野の大学院生1名がTAとして参加した。
 4月から5月にかけて,北部構内で沿岸域の食物連鎖と環境に関する講義および観測計画に関する話し合いを行った。公共交通機関を用いてアクセスできること,北部構内からの移動時間も含めて日帰りで調査が実施できること,船舶の利用が可能であることなどを考慮して大阪湾を調査場所として選定し,神戸大学海事科学部の所有する実習船「白鴎」の共同利用を申請した。参加者の予定に合わせて8月の前期試験後に調査日を設定し,朝9時ごろ最寄り駅に集合して船着場まで移動した。乗船は初めてという人が多く,出航前に船長から救命胴衣の使い方などを教わった。調査地点は淀川河口および西宮防波堤内・外の3点に設定し,順に観測を行なった。各観測地点では,水温・塩分・クロロフィル蛍光値・溶存酸素濃度の鉛直分布を測定した。また採水器等を用いて表層と底層の海水を採取した。乗船前は船酔いを心配していたが,波も穏やかで暑すぎることもなく,移動中は思い思いにクルーズを楽しんでいた。下船後,神戸大学海事科学部の一室をお借りして海水の濾過作業を行ない,その後全員で最寄り駅まで移動して午後4時ごろに解散した。
 観測翌日に,サンプルの分析とデータの解析を行った。蛍光光度計でクロロフィル濃度を分析するとともに,エクセルを使ってデータを解析した。4人の受講生からは講義,計画,解析の機会を通じて活発に質問が出され,議論が盛り上がることも多かった。
 セミナー終了後,受講生からは次のような感想が得られた。「河口の近くとそうでないところで水の色が明らかに違ったのが面白かった,深さと塩分濃度などのグラフを見ることで海の中の様子が何となく想像できて面白かった(工学部1回生)」/「今まで海水に関するイメージは,「人間の活動によって汚されている」「ゴミによって生物が被害を受けている」とかなり自分から遠い存在のように思っていましたが,海に行って,実際に水を触ることで,海は思ったより魅力的で,壮大で面白いものだと感じるようになりました(農学部1回生)」/「船に乗って海上で観測するという体験は,普通他学部ではなかなか体験できないことなので,とても良い経験になったと思う(工学部1回生)」/「海での水の移り変わり方や微生物の観察をもっとできると良いと思いました。フィールドワーク後の考察の時間を増やすのもアリだと思います(農学部1回生)」
 なお,本セミナーは海洋生物環境学の優秀な大学院生によるアシスタンスと,関係者の皆様の支えによって成立したものであり,この場をお借りして心から御礼申し上げます。