南極における海氷下の魚の行動追跡

南極における海氷下の魚の行動追跡

海洋生物環境学分野 市川 光太郎

 2018年11月25日から2019年2月2日にかけて、第60次南極地域観測隊に参加したので報告します。オーストラリアのフリーマントルで最後の補給をして海上自衛隊の砕氷艦しらせに約100名の観測隊が乗り込み、約3週間の航海が始まりました。しらせは南極大陸にむけて一直線に南下します。出航直後の暴風圏と呼ばれる海域を通過したときは船酔いに苦しむ隊員が続出しました。長い航海の間、隊員たちはそれぞれ艦上でジョギングやキャッチボールなどして、きたるべき労働の日々に備えます。もちろんしらせで提供される食事もしっかりと楽しみました。
 氷山がぽつぽつと浮かぶ海域を抜けて氷原が広がりはじめるといよいよしらせの本領発揮です。氷に乗り上げて割り、後退してからまた乗り上げる、というラミングを繰り返して前進します。ラミングを繰り返すこと数百回、12月22日についに昭和基地の近くに到着しました。そこからはヘリコプターで基地へ移動します。
 昭和基地での私たちの調査目的は、昭和基地北側の北の浦において海氷下に生きる小型魚類(ショウワギスやヒレトゲギス)に発信機を装着して、どのような行動をしているか明らかにすることです。白夜の続く夏期間は太陽が出ない極夜に代表される冬期間よりも活発に動いてエサを食べていると予想しました。
 魚を釣ったり、受信機を設置したりするためには海氷に穴を開ける必要があります。この作業が最も難航すると予想していました。実際に最初の穴が開いたのは昭和基地について10日後の2019年1月2日でした。
 
 作業の経過は以下の通りです。
2018年12月30日 海氷の厚さを測定し、最適な実験海域を決定。
2019年01月02日 海氷の掘削方法を確立。
2019年01月04日 機器の設置方法を確立し、音響アレイを構築。
2019年01月05日 水中の発信機の位置を1m 以下の誤差で音響測位。
2019年01月06日 水中音の録音を行い、海氷下における信号伝搬距離を計測。
2019年01月10日 ショウワギスを釣獲し(図1)、発信機を装着した個体を放流。
2019年01月18日 受信機を回収し、合計約8日間のデータをダウンロードした。
2019年02月06日 ショウワギスの移動軌跡を解析し、行動圏を算出(図2)。

 北の浦で釣ったショウワギス(Trematomusbernacchii )6個体およびヒレトゲギス(T. pennellii )6個体に超音波発信器を装着しました。ショウワギスの図2右で示した50%行動圏の平均(±SD)は3639±3110㎡(n=5)、ヒレトゲギスは3748±3613㎡(n=4)でした。ショウワギスの行動圏は8時と22時に広がりました。放流した供試魚のうち、4個体は数日後に再び釣りあげられました。また、胃には魚卵やナンキョクオキアミなどが入っており、活発にエサを食べていたことがわかります。
 本研究により、北の浦のショウワギスとヒレトゲギスは放流後も活発に動き回り、冬期間(Miyamoto and Tanimura, 1999)よりもはるかに広い範囲でエサを食べていることが明らかになりました。

参考文献
Yoshinori Miyamoto, Atsushi Tanimura. Behavior of the Antarctic Fish Trematomus bernacchii ( Pisces, Nototheniidae) Beneath the Sea Ice near the Antarctic Station Syowa Using Acoustic Biotelemetry. Fisheries Science, 1999, 65 (2), p.315−316 DOI

ニュースレター49号 2019年10月 研究ノート