ポケゼミ報告2010「京をめぐる森と人のくらし」

森林生態保全学分野 嵜元 道徳 助教
森林資源管理学分野 坂野上 なお 助教


 少人数セミナー「京をめぐる森と人のくらし」は、景観問題などで注目されることが多い京都市周辺の多様な二次的な森林植生を理解することを目的に、初回と最終回の2回の室内講義を含め、京都市周辺の古社寺とその周辺の森林など5ヶ所を訪れて実施した。セミナーには7名(文学部1名、医学部1名、工学部4名、農学部1名)が参加してくれた。
 現地での研修に先だって、まず第1回目にはセミナーの趣旨・概要を解説するとともに、森林や樹木の生態、及び樹木の分類法についての入門的な講義を行った。第2回目からは現地での研修と解説のかたちをとり、東山にある知恩院や清水寺などの嘗ての所有林であった常緑広葉樹林が広がる高台寺山国有林を皮切りに、比叡山延暦寺の境内林・人工林・天然林、銀閣寺の裏手に位置する大文字山から如意ヶ嶽一帯に広がる落葉広葉樹やアカマツなどを主体とした森林、賀茂別雷神社の嘗ての所有地であった神山・本山国有林などに広がるヒノキ林、そして第6回目には、平安京が造営された際、木材が伐り出されたとされる右京区京北町の山国・黒田地方まで足をのばし、山国神社や常照皇寺といった古社寺や原生状態が保全されている片波川源流域自然環境保全林を訪れた。訪れたそれぞれの森林と古社寺では、森や代表的な樹木を対象にそれらの生態について解説する一方で、断片的ながらも残されている古文書、絵図、林業資料などを用いて過去における人々のくらしぶりについて解説し、森と人のくらしの関わりについて考えた。
 セミナーは4月中旬から6月中旬の土曜日に実施したが、全日晴天に恵まれ、春の爽やかな新緑が風にそよぐ中、気持ちよく楽しく実施することができた。初め、無表情に説明を聞いていた学生くんらであったが、回数を重ねるにつれて、好奇心が表情にみられるようになり毎週土曜日のセミナーを楽しみにして来てくれているような様子がうかがえた。また、移動の車中などでは、わいわい楽しくやっていた学生くんらであったが、現地の研修では、殆どが農学部以外の所属であったにもかかわらず、森林科学の学生くんらを凌ぐような真剣さと意欲をもって森林や樹木への関心を示してくれた。
 学生くんらへのアンケート調査では、概ね好評であり、中には更にもっとやってほしいといった要望が多くあった。実施している教員としては嬉しい反面、やっている身にはしんどく、少し複雑な思いがした。また、課したレポートには、ふだん経験することの少ない森の中の様子と不思議さ、個性的な木々の存在への驚き、森にもある歴史性の認識、そして森林景観への思い・考えなどが書かれており、学生くんらには何かしら感じて、考えるものがあったようである。