第7回時計台対話集会「森里海をつなぐ人づくり」

河口域生態学分野 准教授 田川 正朋


 2010年11月20日(土)に,時計台対話集会「森里海をつなぐ人づくり」を開催した。この日は京都大学の学園祭である11月祭の初日,しかも快晴の土曜日というなかで,210名の参加者があった。
 京都大学フィールド科学教育研究センター(フィールド研)では,森里海連環学を基礎にして,豊かな自然環境の復活とその持続可能な利用の実現を目指している。フィールド研の中心的な催しの一つである本対話集会は,今年度が7回目にあたる。今回は,これまでの対話集会の中締めとなるような,未来を指向するテーマを掲げた。未来を末永く担うのは現役世代ではなく次世代である。森里海連環学の理念を持って実践する次世代をはぐくむ教育,人づくりこそが,日本の豊かな生態系や持続可能な自然の利用を実現するうえで不可欠であり,現役世代の責務でもある。
 本集会は,白山義久フィールド研センター長と江﨑信芳京都大学理事・副学長の挨拶で開幕した。フィールド研の吉岡崇仁教授の司会進行にしたがい,森里海連環学の中心的な提唱者である国際高等研究所フェローの田中克先生より「森里海連環教育の目指すところ-ムツゴロウとオランウータンの会話」と題する熱のこもった基調講演をいただいた。このご講演によって,会場の聴衆全体の意識が一方向を向いた,そのような印象があった。続く基調講演は,法然院との連携で小中学生への環境教育活動に長年取り組んでこられたフィールドソサイエティー事務局長の久山慶子先生に,「子供たちと森で学んだこと」と題する,しっかりとした方向性をもった暖かいご講演を頂いた。子供を対象にした環境教育とは,場づくり,時間作りであって,子供は自分で吸収して学び育っていくものだというお話しは,自然を対象とした教育を大学が考える上で貴重な示唆に富むものであったと思う。

 休憩をはさんでの第2部では,まず,パネリストとして御登壇頂く2名の先生方のご講演から始まった。社会連携によって河川保護活動を行っている作家・アウトドアライターの天野礼子氏からは,「“森里海連環学”と社会連携」,続いて,森里海連環学実習を担当しているフィールド研の上野正博氏からは,「まず大人が変われ…日本のフィールド教育」と題した,それぞれの先生方のご経験に基づく叱咤激励・刺激的・挑戦的なお話しを伺った。続いて,白山センター長をコーディネーターとして,パネルディスカッション,および会場との対話が行われた。会場からは,和やかな雰囲気の中,次世代の人づくりについて,理想や現実,問題点などが,会場全体で活発に議論がなされた。また,今後のフィールド研や森里海連環学への期待や激励の声も頂いた。
 「人づくり」をテーマとした対話集会は今回が初めてであった。基調講演およびパネリストの方々の講演内容は,まさにテーマに即したものであった。今回は210名の参加があったが,約半数の方が対話集会への初参加であったことからも,教育というテーマが新たな参加者を呼び込んだと考えられる。事後のアンケート結果からも80%以上の方が「良かった」と回答しており,満足度は大変高かったことが伺われる。参加者には,対話集会リーフレットに加えて,田中克氏と天野氏がそれぞれ作成した資料が配布された。後日,本対話集会の内容を収録した冊子を2500部作成し,関係各位に配布して本事業の成果を広く周知した。

 本対話集会は,今年度で7回目を数えた。テーマおよび議論の内容は年々,深化しており固定的な参加者も多い。その反面,新規の参加者はやや減少傾向にあり,特に大学生以下の若い世代の参加が少ない。この点に関しては,さらに積極的な広報活動などの改善の必要を感じている。また,時計台対話集会は7回目の本集会をもって第一期を終了する。今後も森里海連環学の考えを元にして自然環境保全を継続していくことを考え,次世代を担う「人づくり」をテーマとしたことで,前述のように新規な参加者を呼び込み,議論にも新たな方向性を加えることができた。この意味で,当初目標の市民対話,社会還元は十分に達せられたと自負している。また,これまで時計台対話集会は,大学や研究者に対して市民が積極的に意見を述べる機会を提供してきた。自然環境保全意識の高まりの受け皿として,この役割はますます重要になると予想されるが,今後,フィールド研としては,これまで同様に市民との連携を図る方策を検討していく必要がある。
 フィールド研としては来年度には時計台対話集会の開催計画はないが,嬉しいことにアンケートでは継続して開催を求める意見も複数寄せられた。この結果をふまえて再度,社会連携委員会で議論したが,単に前年を踏襲するようにして継続するよりも,よりよい形を模索し全く新しい形の対話集会として再開を計画する方が,より建設的であるとの意見があった。そのため,平成23年からその準備のための議論を開始することとなった。
 最後になったが,ご講演を頂いた4名の先生方はもとより,ご参加いただいた多くの市民の方々,ご後援頂いた京都府教育委員会様,京都市教育委員会様,フィールドソサイエティー様,および,ご協賛頂いた村田製作所様,全日本空輸様,エコロジー・カフェ様,サイファーアソシエーツ様に,この場をお借りして深く感謝の意を表す。

年報8号  2011年12月 p.4-5

(参考)
イベント案内ページ
報告(ニュースレター21号 2011年1月)
講演録の案内(2011年2月発行)