2011年5月から、舞鶴水産実験所が,気仙沼湾潜水調査を実施しています。
2012年2月1日 益田玲爾
2011年5月21日から2ヶ月に1度の頻度で,気仙沼市舞根湾周辺において潜水による魚類相の調査を行っている.調査定点は,やや外洋に面した湾外,舞根湾の入り口付近(湾口),舞根湾内のガラモ場,および舞根湾奥部の4カ所である.調査は,観察者のフィンキックにより移動距離を推定し,同時に生物を記録するフィンキック・トランゼクト法による.具体的には,観察者の装備ではフィンの52キックが50mに相当するため,この距離を移動した範囲で,両側各1m,すなわち2×50=100平米の区画に出現する魚類の種類・体長および個体数を記録している.各調査地点で10区画の観察を行い,平均魚種数および出現個体数を求めた(図1).
5月の調査時点では,海底は泥に覆われ,海藻にも泥がかぶっていた(写真1).ニジカジカ(写真2),アイナメ,アサヒアナハゼ,ウミタナゴ,タケギンポ(写真3),スジハゼ,ニクハゼが見られた.ニジカジカ以外はいずれも稚魚であった.このことから,津波の時点では卵または仔魚として外洋にいたために生き残った魚が加入して魚類相を形成していると考えられた.また,本来は比較的深い海に生息するニジカジカが津波により浅所へ運ばれてきた可能性が示唆された.
7月には,海底の泥は減り,魚の数も増えていた.前回とほぼ同様の魚種に加え,リュウグウハゼが多く見られた.また,先に見られたアイナメやアサヒアナハゼなどの稚魚は順調に成長していた.
9月には,これまでに記録された魚に加え,暖温帯に普通に見られるボラ,マアジ,イシダイ,クロダイ,コブダイ,ヒメジなどの魚種も見られた(写真4〜6).震災以前に優占していたと考えられるメバルやクロソイなどの磯魚類が,津波によって一掃され,空いた生態的空間を暖温帯由来の魚が一時的に占めているものと考えられた.
11月には水温も下がり,暖温帯の魚種がいなくなったため,魚種はやや減少した.従来も見られたスジハゼやリュウグウハゼに加え,アイナメの大型個体が見られた(写真7,8).また,キヌバリやウミタナゴの個体数は極めて多かった(写真9,10).競合種であり捕食者ともなりうるメバルやクロソイのいないことによって,キヌバリの生残率が高まり,巨大な群れを形成するに至ったと考えられる.
翌1月にはさらに水温が下がり,魚種・個体数とも減少している.ガラモ場には相当な数のキヌバリが生息するものの,不活発であり,ホンダワラ類の中に隠れる個体が多かった.これまでに見られなかった魚として,湾奥の浅所でマガレイ(写真11)が見られた.なお,湾内に垂下された養殖のマガキは順調に成長しており(写真12),この1月すでに出荷が始まったていた.
津波によってもたらされた浮泥は,5月の時点では海底を多い,当初は漁業や養殖業への深刻な影響が懸念された.しかし,この泥は調査時を追う毎に減少している.これは,当海域において干満の差が大きく,海水の出入りしやすい構造となっているためと考えられる.魚種・個体数とも,時間の経過とともに増加傾向にあり,1月には海底において7.4℃と極めて低い水温であったにも関わらず,比較的多くの魚が確認できた(図1).魚類相はしかし,まだ遷移の途中と考えられ,今後も継続した調査が必要である.
(本調査は三井物産環境基金による支援を受けています.)