ポケゼミ報告2012「環境の評価」

森林資源管理学分野 教授 吉岡 崇仁


 平成24(2012)年度は、全学共通A群の少人数セミナーとして開講し、自然環境を評価することの意味について、自然科学的、社会科学的側面から解説と討論の形式で実施した。教室で7回の講義形式の授業と芦生研究林での合宿を実施した。受講生は、文学部1名、経済学部1名、理学部1名、工学部5名、医学部1名、農学部1名の合計10名であった。中国からの留学生3名(全て工学部生)が受講したが、概念的、哲学的考察においても日本語をよく駆使してゼミでの議論に参加することができていた。
 このゼミでは、人間が環境を評価することの本質について、概念的に検討するため、人間は物事をどのように認識し価値を判断しているのかという枠組みに気付かせることから始めた。教室でのゼミで、環境の価値評価について議論した際には、人間中心主義的観点と非人間中心主義的観点の立場に分かれ、環境保全についてディベートを行った。自らの考え方の確認をするためであったが、ディベートになれていないためか、議論を深めるのが難しいようであった。しかし、ゼミを通して自分の観点を始めて認識し、他の学生の意見を聞きながらさらに考察することの大切さを学び取ったようである。
 芦生研究林での合宿(8月9-10日)では、シカ食害によって貧弱な植生となった芦生の森を実際に観察し、野生動物の保護と植生保全のジレンマを実地に体験することができた。当日、たまたま調査に来られていた農学研究科の高柳講師には、特別にフィールド講義をしていただくことができ(写真1)、一層有意義な合宿となった。
 レポートは、環境に関する新聞等の記事を選び、そこに含まれる「環境評価」の文脈の抽出と解説を課し、その内容を発表し議論した(写真2)。原子力発電について複数の学生が課題として取り上げ、放射性廃棄物の処理に関する話題と、二酸化炭素排出に関するメリットを扱った話題についてそれぞれ考察が加えられた。また、アマゾン熱帯雨林でのハイウェイ建設に関する話題や、マングースによるハブ退治、三峡ダムの水質汚染、ウナギの高騰,木材エコポイントなど、多種多様な話題が取り上げられた。企業による社会的責任に関わる活動、いわゆるCSR活動が、消費者から見れば非人間中心主義的価値観で評価されるが、企業側から見れば人間中心主義的価値観で評価されるものであるという発表もあり、質の高い議論ができたと思う。
 急な依頼にも関わらず快くフィールド講義をしてくださった高柳氏、現地観察に同行してくださった芦生研究林の技術職員の皆さんにお礼申し上げる。