このページは過去の記録として公開しています。白山先生は、2011年4月に異動されました。
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プロフィール 白山 義久
フィールド科学教育研究センター基礎海洋生物学部門 http://www.seto.kais.kyoto-u.ac.jp/yshira/ |
1.研究分野
海洋生物学 特に 小型底生生物(メイオベントス)学
メイオベントスとは、1mmのフルイを通過して、32um前後の細かいフルイに捉えられる、肉眼でようやく見ることができるくらいの大きさの小型の底生動物のことです。このサイズ分画の動物は非常に多く、その生息密度も1m2当たり100万個体以上に達します。また22動物門を超えるさまざまな動物群が含まれており、非常に多様です。特に線形動物(線虫類)が優占することが多いのですが、この動物門の総種数は1億種を超えるとさえ言われています。しかし残念ながら日本では、この動物たちの研究はあまり進んでいません。私は、この顕微鏡でしか見ることのできない、小さな動物の多様な世界に魅せられて、これらの動物の自然史について様々な側面から研究しています。
主な研究テーマは次の通りです。
1)深海産小型底生生物(メイオベントス:meiobenthos)に関する、生態学的研究
メイオベントスが、深海にどのくらいの密度で生息しているか、またどのような生き方をしているかを研究します。例えば、深海は餌の極端に少ないところですが、このような環境で、メイオベントスたちがどのくらい呼吸でエネルギーを使い、どのくらいの餌をどうやって取っているのかを、調べます。また最近では、深海でも、浅海と同じように、季節が巡ってくることがすこしずつわかってきました。深海に生息するメイオベントスが、季節的な環境の変化にどのように対応しているのかも、重要な研究テーマです。
2)袋形動物群、特に線形動物(Nematoda)、動吻動物(Kinorhyncha)、胴甲動物(Loricifera)に関する、系統分類学的研究
小型の動物について、日本では系統分類学的研究がとても遅れています。例えば、海産の自活性線形動物(線虫類)は、現在70種ほどが知られているに過ぎませんが、実際は日本沿岸で、10万種くらいはいるでしょう。一方、人間活動に伴う環境の変化は、この肉眼でようやくみえるほどの小さな、しかしとても多様な生物たちを、科学者の目に一度も触れることなく、次々と絶滅に追い込んでいると思われます。ですから私たちは、これらの生物の多様性を一日も早く明らかにしていかねばなりません。私は形態分類学的研究を通して、線形動物(Nematoda)、動吻動物(Kinorhyncha)、胴甲動物(Loricifera)について、その多様性を明らかにしていきたいと考えています。
しかし、これらの動物の多様性は、人類の手に負えない程ですので、研究を推進する上で、電子顕微鏡や三次元顕微鏡などの、最新の形態観察の技術を駆使することが必要です。またさらに、画像解析技術やエキスパートシステムの開発など、従来の分類学とは、全く異なる手法を開発することも、研究し始めようとしています。
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動吻動物Dracoderes 属の1種。 | 線形動物 Draconema 属の1種。 |
3)メイオベントスの、環境の指標生物としての応用
メイオベントスは、小型のため、世代時間が短く、環境の変化に鋭敏に反応します。また個体数が多く、様々な環境に適応した多様な生物種がいるので、その群集構造から、さまざまな統計的解析手法を応用できる、精度の高いデータが得られます。このような特性を活かして、メイオベントスを用いて、環境変動を評価できないかという可能性を追求しています。
4)海洋における地球環境問題への取り組み
大気中の二酸化炭素濃度の上昇は地球温暖化と密接に関連しているため、社会的注目を集めていますが、この大気の変化は、海水の酸性化を引き起こし、海洋生物に直接的影響も与えます。最近はこの問題が非常に深刻であると認識し、どの程度の影響がでるのかを明らかにしようとしています。
また、地球環境の変化は、地球規模で海洋生物の多様性を減少させる可能性があります。その生物の変化を解明するためには、現在の多様性について地球規模で基礎データを収集しておく必要があります。そこで、世界中の人に参加してもらい、あらゆる地域で沿岸生態系を統一した方法で解析し、データベースを構築して、地域比較をするプログラムを始めました。NaGISAとよばれるこのプロジェクトはだれでも参加することができます。
詳細は、http://nagisacoml.fc2web.com/nagisa/ で見ることができます。
2.好きなもの、趣味
(1) SCUBA・ゴルフ・テニス・スキー・水泳
最近は激しい運動はドクターストップがかかっているので、ウォーキングが中心。
(2) 料理 手の込んだ料理(薫製とか)を作って、家族と食べる。
(3) 囲碁 最近は子供と一緒にMagic The Gathering というカードゲームにはまっています。
(4) 白浜にいますので、温泉。
3.その他
意欲のある学生の、大学院志望を歓迎します。
海洋生物学は非常に幅の広い学問ですが、実際に研究をすることができる場所は、国内でも限られています。私個人の専門分野と多少違う分野であっても、臨海実験所の持つ利点を活かし、海洋生物の自然史に関する研究を進めようとする意欲のある学生の方は受け入れます。