フィールド研10周年を迎えて

センター長 吉岡崇仁


 京都大学は、21世紀を目前にした1990年代後半に地球環境科学研究構想を打ち立て、その一環として、学内のフィールド施設を統合した新たな教育研究部局の設置が計画されました。そして、2003年4月1日に京都大学の全学共同利用施設としてフィールド科学教育研究センター(フィールド研)が設置されました。今年で10周年を迎えるにあたり、一言ご挨拶申し上げます。
 フィールド研は、京都大学の農学研究科附属演習林(北海道標茶・白糠、芦生、和歌山、上賀茂、北白川、徳山)・亜熱帯植物実験所(紀伊大島)・水産実験所(舞鶴)、理学研究科附属瀬戸臨海実験所(白浜)の計10施設を統合し、フィールドにおける教育研究を主眼として設置された部局です。設置の主眼は、これらのフィールド施設が連携することで、森と海のつながりや里のあり方について教育・研究することです。この取り組みを新たな学問分野「森里海(もりさとうみ)連環学」として提唱し、その確立に取り組んできました。
 フィールド研の設置・運営に当たりましては、歴代の京都大学総長はじめ理事・事務本部の皆さまに大変お世話になっております。また、農学研究科、理学研究科の関係者の皆さまからは、この10年間変わらぬご支援・ご協力を賜りましたこと、ここに感謝申し上げます。
 また、公益財団法人日本財団からは、設立当初より常に森里海連環学を深くご理解いただき、ご支援を賜ってまいりました。2008年度には、日本財団からの助成によってフィールド研の中に海域陸域統合管理学研究部門を設置いたしました。この部門は、森里海連環学に関する全学共通教育と地域連携による社会貢献を主な役割としていましたが、2012年度には、日本財団との共同事業として、京都大学学際融合教育研究推進センター内に「森里海連環学教育ユニット」を設立するに至り、大学院教育へと発展することができました。
 フィールド研が掲げた「森里海連環学」は、社会連携教授にお迎えしている畠山重篤氏が気仙沼ではじめられた「森は海の恋人」活動を教育・研究の鏡に写し取ったものであると思います。また、このニュースレターにご執筆いただいているように、田中克フィールド研初代センター長や竹内典之先生をはじめとする設立当時の諸先生方の熱い思いが、この言葉に込められています。その思いの一部は、教科書の発刊や少人数セミナーなどの全学共通教育、学部・大学院での講義と実習、森里海連環学教育ユニットの設立、そして、森里海連環学に関する各種の研究プロジェクトの推進などにおいて実りつつあると思います。しかしながら、森と海のつながり、さらには里やそこに住む人びととのつながりは複雑であり、将来のあるべき森・里・海の連環の姿を創造し、あるいはそれを可能とする人材を育成するには、まだまだ時間が必要だと思います。フィールド研の次の10年の課題として、各地にあるフィールド施設を活用しながら、森里海連環学の一層の充実を図って行きたいと思います。
 森と里と海のつながりに関心を寄せてくださる皆さまには、これまでのご支援に心よりお礼申し上げますとともに、従前に増してのご協力を賜りますようお願い申し上げて、10周年のご挨拶といたします。

ニュースレター31号 2013年11月