2008年度日本財団寄附講座 京都大学・神戸大学合同市民公開講座『人と海のかかわり』

海域陸域統合管理学研究部門 佐藤 真行


 今年度、京都大学フィールド研は、神戸大学大学院海事科学研究科と合同で2回の市民公開講座を企画しています。その第1回目が、2009年1月31日、メルパルク京都にて開催されました。第1回目のテーマは、「海上輸送と生物多様性」。海域における人間行動として、特に船舶による物資の輸送に着目し、それがいかに海洋の生物多様性に影響を与えているかについて、神戸大学の三村治夫教授、奈良大学の岩崎敬二教授から、市民にもわかりやすく、面白い講演をいただきました。会場にはおよそ80名の参加者が集まりました。
 「船舶バラスト水問題」と題する三村教授の講演では、貨物輸送に伴って実に多くの生物が越境移動している実態、そしてその中には繁殖性の強い生物種や有害生物種が含まれており、海洋生態系の破壊や伝染性疾病の発生など様々な害が現実に発生していることが指摘されました。その上で、バラスト水殺菌に関する新技術の可能性などに基づいて、今後の国際条約のあり方を含めて今後どのような対策をとるべきかが議論されました。
 岩崎教授の講演「密航する海の生物たち」では、日本でも物流の増加とともに、外来海洋生物が指数関数的に増加してきていることが示され、いくつかの種を取り上げて、図・写真・データを使って具体的な被害や問題、今後の動態予測などが詳しく紹介されました。そして、問題を解決する上で本来重要な役割を果たすべき行政について、いわゆる縦割りの性質が対策を遅らせる一因になっていることや、法的な規制対象が不十分であることなどといった、具体的な課題が明らかとなりました。
 二つの講演を受けて、神戸大学の石田廣史教授、フィールド研の山下洋教授がパネリストとして加わり、フィールド研の向井宏教授の司会で総合討論がもたれました。パネリストの議論だけでなく、会場からもたくさんの質疑が呈せられ、活発で有意義な議論が展開されました。そこでは船舶の塗装などに使う化学物質の問題など発展的な議題にも広がっていきました。本市民公開講座の第二回目3月14日に開催「河川・海洋における化学物質の管理」というトピックで行われるため、次回につながるという意味でも非常に有意義な総合討論となりました。
 アンケート調査によれば、参加者の方々に総じて高い満足を得ていただけました。もっと話を聞きたい、知りたい、という積極的な方もたくさんいらっしゃいました。こうした期待や要望に応えながら、今後も市民公開講座を続けて参ります。

ニュースレター16号 2009年3月 ニュース