徳山試験地の檜皮剥皮実験林

森林資源管理学分野 坂野上なお


 山口県周南市徳山にある徳山試験地のヒノキ人工林には、檜皮(ひわだ)剥皮実験林を設置しています。文化財建造物などの屋根葺き材として使われる檜皮(ひわだ)を採取することが、ヒノキの材としての成長や材色にどのような影響を及ぼすのかを明らかにする目的で、1997年に設置されました。京大フィールド研と同様に森林をフィールドに持つ東京大学、北海道大学、九州大学および文化財保護に関わる研究者らが研究組織を構成し、現在は東京大学新領域創成科学研究科の山本博一教授を代表とする共同研究の一部として進められています。これまで、徳山試験地のほか東大の千葉演習林、北大の和歌山研究林、九大の福岡演習林での同様の実験結果と併せて、分析が進められてきました。
 檜皮は、ヒノキの立木から専門の職人が木製のヘラを使って剥いていきます。その際、形成層を傷つけないよう配慮して作業が行われ、剥皮直後のヒノキは、真っ赤な薄皮のみに覆われた、暗い林の中でひときわ目を引く姿です。しかしこの剥皮作業によって木部の成長が阻害されるのではないか、材色が悪くなって、最終的に伐採して木材を販売する際に低い値で売らなければならないのでないかと不安視する立木所有者もおられ、檜皮の剥皮に協力してもらいにくくなっています。重要文化財建造物のうち檜皮葺は700棟余りあり、これらの保存維持のために必要な檜皮を確保するためには、檜皮剥皮が立木へどの程度影響を及ぼすのか、科学的に検証する必要があるのです。
 さて、これまでの研究成果によると、檜皮剥皮によって木部の肥大成長が抑制されることはないことが示唆され、材色への影響もないことがわかっています。剥皮直後、樹幹表面のヘラを差し入れた部分に傷跡のようなものがみられましたが、7年後にはその痕跡は消えていました。また剥皮された樹幹の所々に樹脂渗出が観察されましたが、光学顕微鏡での観察によれば、それらの部位に傷害組織や特異な構造は観察されず、師部への剥皮の影響もとくにないと考えられています。参考:木造建造物文化財の為の木材及び植物性資材確保に関する研究 平成17-19年度科学研究費補助金(基盤研究(A)(1)研究成果報告書)

ニュースレター14号 2008年7月 研究ノート