森林生態研究プロジェクト

森林生態保全学分野 嵜元 道徳 


 森林生態研究プロジェクトは、センター森林系が今年度から推進している3本(森林生態、森林環境、森林資源共存)のプロジェクト研究の一つであり、森林資源の持続的な利用・再生と保全の手法を開発するための生態学的な基礎情報を収集することを目的として、センター所属の全研究林・試験地の自然林において行っているものである。課題は、「温帯域の森林生態系の解明と保全管理法の開発」という大課題のもとに、「①森林の動態と多様性維持機構の解明」、「②森林生物種の生活史と相互作用の解明」、「③環境変動と利用形態が森林に及ぼす影響評価」、という3つの中課題があり、各々の中課題の下には複数の小課題がある、という構成になっている。現在、中課題①と②について小課題が掲げられ、研究が進められている。
 ここでは、既に進められている課題を中心にいくつか紹介する。まず、中課題①の小課題の一つとして、「森林の構造と動態」が掲げられている。これは樹木種の水平分布やサイズといった個体群構造とその経年的な推移を把握するためのものであり、北海道研究林・標茶、北海道研究林・白糠、和歌山研究林には約4ヘクタール、芦生研究林には6ヘクタールの大面積調査区を、徳山試験地と上賀茂試験地には1ヘクタール弱の調査区が設けられた。この区画では、地形測量が行われ、胸高直径5cm以上の樹木全てについて、種名、サイズ、位置が記録してある。一方、中課題②の小課題としては、「樹木の種子生産と実生の消長過程」が掲げられている。これは種子の散布様式と経年的豊凶を把握するとともに、種子から実生に至るまでの樹木の生活史初期のデモグラフィックな特徴を把握するのが目的であり、上記の各調査区内の一部に150〜300個程度の種子トラップが設置され種子が回収されている。また当年生実生の動態を追跡するために、全ての種子トラップの横に小枠が設けられている。その他には、下層段階を含めた樹木種の成長や死亡に関わる光、水分、自然攪乱体制などの要因も調べられる。
 今回紹介したものは一部であるが、研究林・試験地に設けられた調査区の面積には違いがあるものの、統一規格で設置され収集されるデータセットは継続されることによって新たな魅力の一つになっていくものと思われる。一方、センター所属の研究林・試験地は、わが国の主要な森林植生をカバーするように配置されている。また、芦生、和歌山、北海道の3研究林に限ると、ともに植生帯境界域に位置しているという特徴もある。こうした特徴は、異なる地域での個別研究や地理的スケールでの比較研究などを行う上で、或いは地球規模での温暖化現象に対して森林がどのように応答するかといった課題などに取り組む上で、大きな魅力となる。森林生態研究プロジェクトは5ヶ年計画で行われるが、センターの研究林・試験地がもつ特徴を十分に生かした様々な課題を掲げて調査・研究を進めるとともに、特色のある魅力的な森林生態研究サイトとなるようにインフラも含めて整備していく予定である。 

ニュースレター1号 2004年 2月 研究ノート