森里海国際シンポジウム「森里海連環を担う人材育成の成果と展望」を開催

研究推進部門 連携准教授・森里海連環学教育ユニット 特定准教授 清水 夏樹

 2017年10月28日(土)に,京都大学北部総合教育研究棟の益川ホールにて,森里海国際シンポジウム「森里海連環を担う人材育成の成果と展望」を開催しました。本シンポジウムは,京都大学森里海連環学教育プログラムをふりかえり,これから社会で活躍する人材が森里海連環学から何を学んだか,どのような経験を得たかを共有するとともに,「これから」のためのネットワークづくりを目的として開催されたものです。
 朝から冷たい雨が降るあいにくのお天気でしたが,多くの方々がお越し下さり,115人の参加がありました。ヘッドセットによる英語の同時通訳もあり,シンポジウム全体が主に日本語で進められたものの,登壇者・会場参加者とも国際色豊かなシンポジウムとなりました。
 プログラムは,まず,山下洋教授の基調講演「森里海連環学;森里海のもつれた三角関係を解く」から始まりました。日本の沿岸漁業漁獲量が1980年前後のピーク時から大きく減少したのはなぜか?その理由を,これまでの森里海連環の研究成果から解説いただきました。森里海連環学の発端となった「森は海の恋人」の紹介(畠山重篤社会連携教授さんも会場にお越しくださっていました!),大分県の国東半島,京都府の由良川~丹後海などを対象とした具体的データから,水圏生態系を再生するために森里海連環学の重要性が示されました。
 特別講演では,環境省自然環境局の奥田直久・自然環境計画課長より,「『つなげよう,支えよう森里川海プロジェクト』について」と題してご講演いただきました。本プロジェクトは,森里川海の恵みの再生と循環,その恵みを支える社会をつくることを目指したプロジェクトです。全国で地域単位のプロジェクトが進められており,森里海連環学を学んだ学生の活躍の場になりそうです。講演の中では,これらの課題のために,技術,社会システム,ライフスタイルのイノベーションが望まれていることが紹介されました。そこで続いての特別講演として,「社会に新しい価値を生み出す:日本の「革新者」たちのキラースキル」と題して,齋藤義明・野村総合研究所2030年研究室長にご登壇いただきました。齋藤さま室長には,国内100人の革新者へのインタビューから導き出されたイノベーションのための5つのキラースキルと1つの裏スキルについて,具体的な事例をあげてご紹介いただきました。実践に向かってぐっと前進したくなるお話でした。
 シンポジウム中盤は,教育プログラムのレビュー報告を行いました。まず,朝倉 彰・森里海連環学教育ユニット長より,5年間のプログラムの成果を,人材育成や同窓会活動など履修生・修了生に関する成果,また,森里海連環学を巡る国内外のネットワークの拡大などが紹介されました。たとえば,2017年4月までにプログラムに登録した履修生は9研究科から298人,修了生は現時点で141人となり,大学院修了後は,国内外の企業だけでなく,中央官庁や自治体,大学などに就職しています。補助を受けてインターンシップを実施した学生は97人,行き先は31カ国に上っています。益川ホール前のポスターセッション会場には,シンポジウムに都合で参加できない修了生・履修生から寄せられたメッセージも掲示されました。
 会場の参加者全員での記念撮影の後,世界中から京都に再集合した修了生が登壇し,現在の仕事内容などの近況報告と,前日および当日の午前中に開催されたグループワークの報告がなされました。原田真実さん(経済産業省資源エネルギー庁),Kaya Abdulgaffarさん(トルコ・南東アナトリア森林研究局),Kieu Kinh Thiさん(ベトナム・ダナン師範大学)は,教育プログラムの講義や実習,他分野の大学院生との交流が現在の仕事に役立っていることを語ってくれました。グループワークの報告のうち,履修生を中心とした教育プログラムの成果の報告では,当日に発表者が急に変更になり,ピンチヒッターの農学研究科修士1年の世古将太郎さんが発表しました。CoHHOプログラムに参加して役立った経験について,個人,研究およびネットワークづくりの項目ごとに意見を出し合った結果の報告です。グループワークでも,インターンシップやグループディスカッション,フィールドワークを通してさまざまな人と交流できたこと,新たな視点,知識,スキルを獲得できたことがメリットとして挙げられていました。今後のCoHHO研究・教育・実践活動の展開については,橋口峻也さん(環境省),Sandra Carrasco Manshilla Milenaさん(メルボルン大学研究員),松本京子さん(東京大学生産技術研究所特任研究員)が各グループの代表としてグループワークの報告をしました。最後に,柴田昌三・副ユニット長がグループワークの感想を述べました。
 クロージングセッションでは,インターンシップを受け入れている機関であるダナン大学のHoang Hai国際関係部長と環境NGOイカオ・アコの倉田麻里理事から,プログラムが目指してきたことやグループワークについてコメントをいただきました。続いて,本プログラム開講時の開講記念講演をしてくださったDenis Bailly教授からのビデオレターがとりやめになり,急遽,ベトナム・ダナン科学技術協会連合のHuynh Phuoc副会長からコメントをいただきました。Phuoc副会長は,森里海連環学の理念に深く共感し,森里海連環学をベトナムでの環境保全活動に導入しています。いずれも,環境問題の解決には森里海連環の考え方が重要であり,今後の研究の進展に大いに期待したい旨のコメントがありました。
 最後に,本プログラムの共同実施者である日本財団より,梅村岳大・海洋事業部海洋チームリーダーがコメントし,横山壽ユニット特任教授の閉会のあいさつでシンポジウムは閉会となりました。
 本シンポジウムの一部は,京都大学のOCW(オープンコースウェア:インターネット上での無償公開活動)で公開される予定です。

(初出:森里海連環学教育ユニット活動記録2017)

年報15号