ILASセミナー報告2020「京都の文化を支える森林-地域の智恵と生態学的知見」

ILASセミナー報告2020「京都の文化を支える森林-地域の智恵と生態学的知見」

森林育成学分野 准教授 石原 正恵

 本セミナーは,森林と人間の関係を科学的に捉える研究手法や森林の利用に関する地域の歴史や人々の智恵を学び,森林と人間社会との新しい関係を考えることを目的としている。例年は2泊3日で京都市の里山である上賀茂試験地や原生的な森林である芦生研究林などを見学していた。本年は,新型コロナウイルス感染症のため,事前学習,上賀茂試験地・芦生研究林・北白川試験地での実習を日帰りで開催した。
 事前学習では,事前に録画した講義を学生に各自で実習前に見てくるように指示した。講義内容は,「人と森の関係」(德地直子教授),「上賀茂試験地の紹介」(吉岡崇仁教授),「芦生の天然林」(石原),「シカによる生態系改変」(石原・吉岡),「トチの伝統的利用と地域資源としての活用」(坂野上なお助教),「都市と農山村をつなける」(赤石大輔助教)であった。さらに, 上賀茂試験地の紹介ビデオ(https://youtu.be/mw4CxduYy9Y ), 芦生の動物生態ビデオ(https://youtu.be/iZF7H3bBn_o)なども事前教材としてみてくるように指示した。
 上賀茂試験地の対面実習には,9月10日に学生6人,11日に学生4人が受講した。講義「人と森」(石原)を行った後,林内観察し,上賀茂試験地が長期観測を行っている第2林班のプロットNo.20で毎木調査を体験した。さらに,チェーンソーや成長錐をもちいて円盤や年輪コアをヒノキとアカマツから採取し,年輪数を数え何年前に更新したかを求めた。対面実習に参加できない学生には9月2日に公開森林実習I と同時開催でオンライン実習を行い,学生3人が受講した。
 芦生研究林の対面実習には,9月16日に学生7人,9月28日に学生5人が参加した。フィールド研をバスで出発し,10時ころに芦生研究林事務所に到着した。講義をせずに,ヘルメット等の装備をととのえ,林内で森林およびシカ排除柵を見学し,トチノキ平でシードトラップを用いたトチの実調査を行った。その後構内に戻り,レポートに使用するモニタリングサイト1000枡上谷の毎木調査データを解説したのち,事務所を出発し,19時ころに大学で解散した。対面実習に参加できない学生には9月16日に公開森林実習I と同時開催でオンライン実習を行い,学生1人が受講した。
 北白川試験地の対面実習には,9月29日に学生2人,9月30日に学生4人が参加した。技術職員による案内で樹木園,材鑑室,j.Pod(間伐材を活用した建物),北山台杉を見学した。
 本年は,オンラインでのみの参加学生,部分的にオンライン参加の学生など,多様な学生に対応するため,日程調整や教材の面で準備に多くの時間を要した。また,従来であれば,講義を行ってから,野外での調査や解析を行っていたが,講義を事前学習とすることで,対面講義の時間を減らし,野外実習の時間を長くする事ができた。学生の中には,本セミナーが入学後はじめての対面という学生もいた。「実際にフィールドワークで森林のにおいを感じることで気が付くこともあり,参加することが出来てよかった」,説明をうけたことでこれまで何気なくみていたものも「解像度が上がって見えるようになっていることに気づ」いた,といった感想もあり,フィールド実習ならではの深い学びを提供できたのではないかと感じた。

年報18号 2020年度実習報告