里海生態保全学分野助教 鈴木 啓太
舞鶴水産実験所は大学生や高校生を対象とした実習を教育活動の柱のひとつと位置づけ、近年は毎年10件前後を開催してきました。しかし、新型コロナウイルスの感染予防のため対面授業が長期間中止された2020年度には、大部分の実習を開催することができませんでした。そこで、コロナ禍における実習開催方法について実験所教職員が議論を重ね、補助教材として実習動画を作成することになりました。現場で体験することにこそ実習の意義があるのは間違いありませんが、オンデマンドで視聴可能な動画を利用することにより対面の回数や時間を最小限にして実習を開催することができると考えたからです。
実習動画は、学内の困窮学生に対する緊急支援プランの一環として配分されたオンライン授業実施のためのTA・OA経費を活用し、学生TAを雇用して2020年度後期に作成しました。シュノーケリング、乗船調査、標本作成などの項目ごとに学生TAを相手に担当教員が模擬実習を行い、動画を撮影しました。また、学生TAには動画に字幕を入れるなどの編集作業も手伝ってもらいました。そして、2021年度前期には京都大学Wild & Wise事業の経費を活用し、実際の実習風景を追加で撮影してもらいました。ちなみに、私が担当した乗船調査は、悪天候に見舞われ、実習生の多くが船酔いし、映像と音声が不鮮明になってしまったため、個人的には不満の残る仕上がりでした。
編集作業を進めるうちに、フィールド研企画情報室から京都大学オープンコースウェア(OCW)に実習動画を公開することを勧められました。当初、私は乗船調査の動画に不満を感じていたこともあり、この提案にあまり乗り気ではありませんでした。しかし、現実の実習風景を公開することにも意義があると考え直し、手続きを進めることにしました。多少の紆余曲折を経て、2022年5月9日に公開までたどりつき、企画情報室が翌日プレスリリースを行ってくれました。大きな反響は期待していませんでしたが、2022年5月25日に「野外調査の臨場感、オンラインで体験 京大が映像教材を一般公開」と題した記事と乗船調査の動画から切り取られた画像が毎日新聞に掲載されました。悪天候にともなう映像や音声の乱れが臨場感と評価されたことに驚くとともに、コロナ禍で本当に求められているものに気づき、目から鱗が落ちる思いでした。新型コロナウイルスの感染予防対策をとりながら、可能な限り対面で実習を開催し、臨場感を超えた現場体験の機会を提供してゆきたいと考えています。
年報19号 2021年度 主な取り組み