ポケゼミ報告2010「森のつくりだすもの」

森林生態保全学分野 德地 直子 准教授


 森は有形・無形のさまざまなものを私たちにもたらしてくれるが,森の実際の姿や森の作り出す機能の創出のためにどのようなしくみがあるのか,よく知っているとはいえない。このポケゼミ“森のつくりだすもの”は,森に入って,森にふれ,さまざまな森の性質をとらえることを目的としている。
 本実習は,和歌山研究林において夏季休業期間に行われる。和歌山研究林はフィールド研の研究林においても集落から離れた自然にめぐまれた地域にあり,また人工林率の高い森林からなる。そのため,以前は人工林の育成に関する林学教室の実習が行われていた。このような特徴を生かし,自然の森林を体験するだけでなく,現在産業として厳しい状態にある林業についても考えるきっかけとしてもらいたいとカリキュラムを立てている。また、大学で行われている研究活動に触れる意味で、今年度は特に、森と川のつながりにおいて見落とされがちであった河川内での水質形成プロセスに関わる実験を加え、以下のようなスケジュールとなった。

第一日目
 研究林を源流のひとつとする有田川の下流地点に集合し,上流に向かって河川水をサンプリング・調査しながら研究林にはいる。

第二日目
 和歌山研究林が設置されて以来手付かずで残されている貴重な天然生林とそれをとりまく人工林内を散策し,樹木の識別を通して自然の営みを見つけ,天然林,人工林のそれぞれの特徴を学習する。

第三日目
 研究林内の河川において、栄養塩、塩など異なる溶質を添加する実験を行った。その際に導電率計を用い、河川内での水質形成について考える。また、人工林を管理することの重要性を学び,実際に間伐体験を行う。
 これらのまとめのレポートを作成する。

 河川内での水質形成については、これまで見落とされがちなプロセスであり、これまで我が国での研究も数河川でしか行われていない。そのため、“森が水をつくる“というキャッチフレーズめいた感覚をもつにすぎない新入生にとっては、河川内を対象にすることは非常に不思議に(?)思われている様子であった。
 非常にささやかな体験ではあるが、林業という生業の部分、そこにある木材生産やそこから派生する水質形成の科学的な見方など、少し何かを感じてもらえたのではないかと思っている。

(写真準備中)