ポケゼミ報告2013「海岸生物の生活史」

海洋生物系統分類学分野 准教授 久保田 信


 5名(医1女, 理1女, 経済1男, 農1男,工1男)の参加(定員4名)で2013年5月3-6日に実施した。自然環境に恵まれ風光明媚な白浜町(和歌山県)に産する動物を中心に、83年もの伝統ある水族館を有する瀬戸臨海実験所の周囲の海岸において実地授業を行った。主な実習内容は、(1)海洋生物の多様性の解説(教科書:拙著「宝の海から」)と図鑑での学習;(2)不死のベニクラゲの形態とGFP;(3)漂着物調査(番所崎と実験所“北浜”);(4)磯観察(番所崎)と番所山からの自然観察;(6)瀬戸漁港の生物観察;(7)実験所構内に出現する夜行性熱帯性海浜動物の観察と地球温暖化の説明;(9)水族館で飼育展示中の諸動物分類群の解説と観察; (10)南方熊楠館で粘菌の観察:(11)特製DVD・CDで、特に不老不死のベニクラゲと早死のカイヤドリヒドラクラゲ(担当者のライフワーク)の解説と歌。

 多様な海岸の生物群、自然あふれた現場で実地体験する有効性を、整った設備と廉価な滞在費で(交通費と食費は実費)実施できた。日本最古で質のよい温泉で、フィ-ルドワ-クの疲労も吹き飛ばした。参加5名の感想の一部を紹介する。「海には未知の生物がまだ多く生息しており、不死のベニクラゲのようなロマン溢れる生物はこれからも発見されるだろう」。「宝の海にあった幼体のタカラガイを見ると成体で巻貝と思わなかったが、その仲間であることが良くわかった」。「白浜は想像以上に自然環境が豊かで様々な生物に出会えた」。「番所崎の海の綺麗さに驚き、タイドプールの豊富さに驚いた」。「先生の歌は流石原作者だと思いました。歌詞は分かり易いだけでなく様々なメッセージあり、耳に残るものだった」。

 本実習はいくら時間があっても足りない。その理由は、生命の母なる海には未知な生物が、無数に、多様に、時空的に変化しながら、お互いに影響しあって存在しているからである。例えば現生145万種もの動物は最細分しても、たった44門。この基礎を得心し、これからの人生で、地球の同朋者として生きている彼らの個々の一生、つまり、配偶子から受精卵・幼生・幼体・成体・老齢体など、「生活史」のことを常に頭におき、個体・種全体・特定地域個体群・地球全生物の現在・ 過去・未来に思いを十二分に寄せること。人間以外は“食う食われるの関係”で種の存続が成り立っている「食物網」にも留意し、現存できる“おごそかさ”を十分にかみしめること。人間として生まれた幸せを納得すること。以上のポイントを今回の実習から今後心得ておくことこそ人間の義務です。これからは多様な海洋生物、特に岸辺で出会える様々な生き物に、人生をかけて、あるいは趣味として、めいっぱい親しもう、何かすごいことを究明しようといった思いが芽生えてくれば、本実習に参加した意義があるでしょう。3大テ-マ:(1)ベニクラゲの若返りのメカニズムの解明とその人類への応用;(2)造礁サンゴ類・サンゴイソギンチャクに習い、人工光合成で食糧問題の解決;(3)南海・東海大地震の予測、これらに加え、海に潜む生物の様々な秘密を発掘・研究・応用する醍醐味を夢にみて下さい。末筆ながら、学部を越えた交流も続行して下さい。