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活動報告

フィールド科学と森里海連環学の未来

京都造形芸術大学学長・前京都大学総長 尾池 和夫


 京都大学フィールド科学教育研究センター(FSERC)の創立10周年、まことにおめでとうございます。京都大学フィールド科学教育研究センター編集『森と里と海のつながり- 京大フィールド研の挑戦』で、異分野統合科学としての「森里海連環学」創生の挑戦が、企画展のパネルに説明を加えて紹介されました。今後の展開もそこで述べられています。また、田中克著『森里海連環学への道』でも、2003年4月に発足したセンターのセンター長としての思いが述べられています。今また読み直してみても新鮮な発見があります。
 フィールド研は、芦生、北海道、和歌山の研究林、上賀茂、徳山、北白川の試験地、紀伊大島、舞鶴水産、瀬戸臨海の実験所と、全国の各地にフィールドの拠点を構えています。私は、徳山試験地以外、何らかの形でこれらの拠点を訪問する機会に恵まれました。どこよりも印象に残る訪問でした。
 フィールド研の『ニュースレター』(30号2013年8月)には、新人紹介として、荒井修亮さんが登場し、驚きました。「新人」という言葉に驚いたのです。荒井さんは、第39次南極地域観測隊の一員でした。アデリーペンギンをマイクロデータロガーで調査する仕事が、極地研の委員をしていた私の印象に残りました。21世紀COE などの担当者としてタイで活躍しているとき、会議から抜け出してバンコクの下町を案内してもらったのも、楽しい思い出になりました。ウミガメ、ジュゴン、メコンオオナマズの調査を行っているときでした。それ以来送られてくる報告を心待ちにしています。
 研究者の功績は、いろいろに現れますが、辞書の見出しに新しい言葉が追加されるということにも、私は具体的な形があると思います。『広辞苑』第6版には、「フィールド」という項目があり、野原、野外の他、学問などの領域・分野などの記述があり、「フィールドーワーク」「フィールドーノート」などが見出しにありますが、「フィールド科学」や「森里海連環学」はまだ出ていません。
 森と海の豊かな自然に介在する里域生態系の解明への挑戦が、フィールド研の創立理念です。その研究成果が具体的な形として国語辞典に載る日がきっと近い将来に来ると、私は楽しみにしています。

ニュースレター31号 2013年11月