4 年目となる「森里海連環学による地域循環木文化社会創出事業」

森林資源管理学分野 教授 吉岡 崇仁

 本事業は京都府由良川流域と高知県仁淀川流域において,森から海に至るすべての生態系間の連環を研究する森里海連環学研究を推進し,森林管理による森林流域環境の変化と,地域社会での森林資源の利活用に関して,自然科学的評価と人文科学的評価の双方の結果を統合することにより,地域循環木文化社会創出のモデル事業を実現しようとするものである(略称「木文化プロジェクト」)。平成24 年度はプロジェクト5 年計画の4 年目の年度にあたり,由良川,仁淀川両流域ともに,これまでの野外調査データの集約と不足データの取得に努めた。また,由良川流域ではフィールド研芦生研究林下谷の実験地において,間伐施業を実施し,間伐後の調査を実施した。間伐地にシカ防除柵を設置し,間伐による林床植生の回復過程とシカ食害の影響解析を開始した。また,土壌物質循環解析のための調査区を設け,間伐スギ枝条の有無が,土壌窒素栄養塩動態に及ぼす効果を把握するために,イオン交換樹脂コアの埋設実験を行っている。平成25 年度に向けてデータの集積を目指している。一方,社会調査に関しては,由良川流域の美山町森林組合,仁淀川流域の仁淀川森林組合の森林所有者に対する意識調査「美山町の森とくらしに関するアンケート」と「仁淀川町の森とくらしに関するアンケート」を実施した。その結果,森林を管理し利用する上で資金と労働力が制約となっているが,所有森林の資源活用の意欲は高いことが明らかとなるなど,将来の地域循環木文化社会を構築するための基礎資料として重要な知見が得られた。それぞれの調査結果について速報版を公開した。(美山町調査結果仁淀川町調査結果)。 また,木文化サロンセミナーとして「高知の森からバイオマス利用を考える」(6 月14 日)を開催するとともに,由良川プロジェクトの拠点の一つである芦生研究林において,研究成果報告会を実施した(9 月26 日)。
 プロジェクトで明らかとなった学術成果については,ニホンジカによる食害に関する植生影響の論文を発表したほか,国内外の学会にて発表し,複数のポスター賞を受賞するなど,高い評価を得ている。また,地域社会への貢献としては,両流域における地域連携の市民講座,シンポジウムを開催するとともに,フィールド研10 周年記念プレシンポジウムにおいて,プロジェクトの成果を発信した。

年報10号  2013年11月 p.8