気仙沼舞根湾での潜水調査

里海生態保全学分野 益田 玲爾

 2011年5月から2ヶ月に1回、気仙沼市の舞根(もうね)湾を訪れて、潜水調査を行っています。ここはフィールド研の畠山重篤社会連携教授がカキ養殖を営む海域です。東北大震災の直後に同教授から、「津波のあとの海が復活する様子を、潜水して記録してもらえませんか。学術的にも価値のあるものになるはずです」と相談され、元センター長の田中克名誉教授らと共に訪れて調査を続けています。最初の訪問時に4カ所の定点を設けて、出現する魚類や無脊椎動物の種類・体長と個体数を継続して記録してきました。
 津波から2ヶ月後の海底は、のっぺりと泥に覆われ、そこに少数の稚魚のみが散見されました。津波の激流により魚たちは押し流されて、陸上から運ばれた土砂が堆積し、津波発生時に卵や仔魚として沖合で漂っていたものだけが生き残り、沿岸にやってきたのでしょう。それから半年の間に魚の数は急激に増えましたが、この時期にはハゼ科のキヌバリがやたらと多く、他の魚は少数でした。競争相手や捕食者がいないために、小型で寿命の短いハゼが爆発的に増えたと考えられます。
 津波から1年経つと、魚の種類も増えてきました。しかし、まだ小型の個体がほとんどです。これが2年を経過した頃から、同じ魚種でも大型の個体が多くなってきました。アイナメやオキタナゴについて、十分に漁獲できるサイズの個体が増えたのは、津波から2年後以降で、実際、この頃から磯でのカゴや刺網等の漁業が再開されました。津波から3年4ヶ月後となる今年7月の調査では、全長15cm を超えるシロメバルが群れをなしていました。魚だけではなく、漁獲対象として重要なマナマコも、全長が30cm 前後の大型個体が着実に増えています。
 舞根湾の冬季水温は4℃まで下がります。しかも給湯施設がなかったため、調査を終えて頭からかぶるのは0℃の真水というのが冬場の当たり前でした。先頃竣工した舞根森里海研究所には温水シャワーも設備され、調査の環境は格段に向上しました。
 今年の3月の潜水調査中、トゲクリガニがカエルを捕食している場面に遭遇しました。寒さで弱るか大雨で流されるかして海にたどり着いたカエルを、カニが餌として利用しているのでしょう。少々グロテスクな光景ではありますが、陸と海とが密接に連環していることを実感しました。
 一方、我々が調査を進める間にも、東北地方の沿岸では、巨大な防潮堤が築かれつつあります。森と海のつながりが分断されることのないよう、配慮が必要かと思います。

ニュースレター34号 2014年10月 研究ノート