森林育成学分野 德地 直子
公開森林実習は、京都周辺の奥山・里山に関して多面的な知識を得ることを目的に、9月10日~12日に上賀茂試験地、芦生研究林、北白川試験地の3施設における樹木実習や水質分析実習、さらには、木材市場の視察という構成で実施しました。また、今年度は全国8大学9名に加えて、京都大学「地(知)の拠点プログラム(COC)」による9名を加えた計18名の受講生を受け入れて、同時開催となりました。このプログラムでは、産官学が連携して地域に関わる課題を取り上げ、その過程で学生が地域へ目を向けるようになり、学生の地域への還元が期待されていることから、京都大学では“京都学”として京都に関わるさまざまな実習が行われています。今回の実習では、特に芦生研究林が直面するシカによる過食害の問題を取り上げました。
初日には上賀茂試験地で里山の現状を視察したのち、芦生研究林に移動しました。食事のあと、シカによる過食害への対応策のひとつとして地域で取り組まれている有害捕獲事業の担い手である田歌舎の猟師藤原誉氏を講師としてお招きし、有害捕獲事業の現実と問題点、捕獲されたシカの有効利用に関してお話を伺いました。2日目には、芦生研究林を杉尾峠から長治谷を中心に視察し、実際にシカによる過食害のため下層植生がほとんどなくなってしまった林床と、防鹿柵で周囲を囲ったエリアでの下層植生の繁茂した状態を目の当たりにして、実習生にもシカの影響が実感として感じられたようでした。最終日には、森林を利用し、地域の生活を成立させる地域・森林づくりのひとつの方策である林業について学ぶため、北桑木材センターでの実地視察を組み入れました。木材センターでは会長の中坂昭氏に林業の現場からの問題点や対策(国内産材の利用の促進や材価の傾向など)、これからの林業経営から見た森林の造成についてのお話を伺い、次いで市場にて、集まった木材に関する仕分けの基準や競りの様子について説明を受け、北桑木材センターが運営するおが粉生産ラインを見学させていただきました。最後に北白川試験地を訪問し、我が国の各地から集められた樹木を比較しつつ観察しました。
藤原氏からはシカの過食害はシカにだけ問題があるのではなく、シカの増加を生じさせたのはなぜかについて問いかけられ、現在の生活スタイル、地域の過疎化など様々な課題を考えるきっかけとなりました。中坂氏からも実感としての近年の気象変動を踏まえ国土保全を視野にいれた森林造成のお話があり、現場の方からの生活に密着した視点と実際の森林の状態は、日々大学で机に向かう学生たちに新しい気づきを与えてくれたようでした。
ニュースレター34号 2014年10月 教育ノート