ポケゼミ報告2014「森を育て活かす-林業体験をとおして考える」

森林育成学分野 准教授 長谷川 尚史


 森里海の健全な連環を成立させるためには,環境性だけでなく,経済性や社会性における持続性の観点からのアプローチも重要となるが,近年の林業や中山間地域を取り巻く経済環境の劣化は,森林地域での人口減少や生活基盤の喪失(病院や学校の閉鎖)を招き,森林資源を持続的に有効活用し,管理していく体制づくりを困難にしている。森林管理体制の構築には,森林に関する生態学的知識から,資源を有効に活用し,地域社会をうまく成立させるための農学,工学,経済学,法学,社会学など,様々な専門分野の知見が必要となり,従来の森林科学だけでない多様な学生に理解を深めてもらい,将来社会の構築について議論していく必要がある。本セミナーでは,日本で伝統的に行われてきた林業作業を体験するとともに,最先端の林業の作業現場を見学し,また山村で暮らす人々と交流を行うことによって,森林と人間社会との関係を幅広い観点から議論することを目的に開講している。
 3回目を迎えた本セミナーは,前回まで開催してきた芦生研究林から和歌山研究林に場所を移して開催した。和歌山研究林は日本の人工林地帯の中でも最も急峻な地域に位置し,我が国全体の持続的森林資源利用と管理を考える上では,最も適している。これまでは公用車2台,定員10名として募集していたが,運転手が確保できなかったことから,1台分の定員5名で,8/6~9の4日間の日程で実施した。本年度のセミナーの参加学生は,経済学部1名,工学部3名の1回生,計4名であった(他の1名は急用のため欠席)。このほか,TAとして森林育成学分野院生1名が指導を補助した。
 初日朝に京都大学本部を出発し,食料等を購入した後,高野山に向かい,午後から高野山寺領森林組合職員の皆様の案内により,高野山境内の伝統建築と奥の院の600年生と言われるスギ林分について見学,解説していただいた。また周辺の人工林で実施されている作業道作設および間伐作業現場を見学した。その後,和歌山県で最も標高の高い地域である護摩壇山周辺に移動し,採水試験が実施されている三興林業(株)山林およびブナ天然林の見学を行った。その後,宿舎となる開設したばかりの和歌山研究林清水分室に移動し,荷物整理を済ませた後,和歌山研究林と協定を結んでいる地主のマルカ林業(株)事務所前にて地域の方との交流会を行った。交流会後は宿舎に戻り,本セミナーのガイダンスおよび講義を実施した。非常に内容の濃い初日となったが,講義時にも参加学生は目を輝かせていた。2日目は朝から和歌山研究林に移動し,研究林職員の指導の下,下刈り実習およびスギ人工林における間伐プロットの設定と毎木調査を行った。下刈り実習では,慣れない草刈り機を操作し,炎天下での作業の苦労を各自が実感したようである。夕方には宿舎から近いしみず温泉で汗を流し,食堂で夕食を取った後,宿舎で毎木調査のデータ整理と間伐木の選定,間伐前後の蓄積量算出および樹冠投影図の作成等の内業を行った。3日目は実際に間伐木の伐倒,造材,集材を行い,夕方には宿舎から15分ほどの距離にある二川温泉で入浴した。二川温泉の建物では和歌山研究林で伐採されたヒメシャラが柱として使用されており,伐採した木がどのように使用されるのかについても解説した。4日目は当初の予定では吉野に向かい,250年生のスギ人工林や吉野材センターを見学する予定であったが,あいにく未明から豪雨となり警報も発令されたため,安全のために予定を変更して大学への帰路についた。
 当セミナーの開催にあたっては,高野山寺領森林組合,マルカ林業(株),有田川町の皆様に多大なご協力をいただいたほか,和歌山研究林職員にも多大な協力をしていただいた。この場をお借りして深くお礼申し上げる。