舞鶴水産実験所の教育研究船「緑洋丸」の世代交代

里海生態保全学分野 鈴木 啓太

 2015年12月24日、舞鶴水産実験所に大きなクリスマスプレゼントが届きました。新しい教育研究船が納入され、新「緑洋丸」として就役したのです。現在、新旧「緑洋丸」(以下、新船と旧船)は実験所の桟橋に並んで係留されています(写真1)。本稿では旧船の往時を振り返り、新船の建造過程と搭載設備を紹介します。
 旧船は1990年春に就役し、25年以上にわたり実験所の教育研究活動を支えてきました。繊維強化プラスチック(FRP)製、全長16.5m、総トン数18トン、定員30名、370馬力のエンジン2基を搭載しています。後甲板の油圧ウインチを用い、小型底曳網や大型プランクトンネットにより生物採集を、また、舷側の電動ウインチを用い、水質計や採水器により海洋観測を行うことができます。高校生や大学生が日本海の環境と生物を現場で学ぶ実習、スズキやヒラメなどの水産重要種の初期生活史を究明する調査、海上保安庁や水産総合研究センターとの共同調査など、毎年50~90航海の実績を積み重ねてきました。特に、実習が集中する夏休みは人と物を満載して連日出航することも珍しくありませんでした(写真2)。しかし、近年は老朽化にともなう各種不具合が顕在化し、代船が待ち望まれるようになっていました。
 代船の建造計画が動き始めたのは2014年夏のことでした。仕様書の作成、業者への説明、入札と審査を経て、株式会社ニシエフ小浜工場において建造されることになりました。2015年夏に FRP を積層するための木型を組み上げる作業が始まりました。FRP 製の外殻は肋骨や隔壁により補強され、エンジンや燃料タンクなどが設置された後、FRP 製の甲板と船室が取り付けられました(写真3)。航海機器や甲板機械の設置、燃料系や冷却水系の配管、電気系統の配線、塗装や内装などが工程に沿って進められました。熟練工の手作業の積み重ねにより、新船が徐々にその全容を現す様子は非常に興味深いものでした。
 新船は全長17.7m、総トン数14トン、定員26名、734馬力のエンジン1基を搭載しています。旧船に比べて全長が長く、船室が小さいため、甲板は広がったものの定員は減りました。離接岸や海洋観測の際に船首方向を微調整するため、サイドスラスター(横向きの小型プロペラ)が船首に備えられています。また、油圧ウインチと電動ウインチに加え、後甲板には漁業クレーンが設置されており、重量物を安全に移動することができます。さらに、各部屋にはエアコンが設置されており、室内を適温に保ちます。新船は旧船の機能を拡充し、総じて安全性と快適性を高めた船と言えます。この世代交代を機に実験所の教育研究活動がさらに活性化されることを願っています。最後に、旧船の長年にわたる活躍に敬意を表し、新船の建造に尽力された方々に感謝を記します。

ニュースレター38号 2016年2月