新人紹介 市川 光太郎

海洋生物環境学分野 准教授 市川 光太郎

 幼少期から釣りが好きで、水中の生物の動きに興味をもっています。京都大学農学部に入学し、修士課程からジュゴンの鳴き声の研究をしてきました。ジュゴンは目視で観察することが難しいため、鳴き声を録音して彼らの行動を調べます。私たちがすることは海中に録音機を置いておくだけ。データがとれるかどうかはジュゴン次第なので、この観察方法を“受動的”音響観察といいます。
 ピヨピヨピーヨというジュゴンの鳴き声を初めて聞いたときはとても驚きました。今から思えばそれが研究にのめりこむきっかけだったと思います。ジュゴンの鳴き声研究はとてもマイナーな分野ですが、世界で自分だけが知っているといこわく
う蠱惑的な感覚に溺れてしまっています。まさに人魚の歌声にたぶらかされた船乗りの現代版といえるでしょう。
 これまでの受動的音響観察によってジュゴンの鳴き声の基礎的な情報を得ることができました。次のステップとして、個体に記録計を装着するバイオロギングに取り組んでいます。野生のジュゴンを捕獲する必要があるのですが、なんと海上でジュゴンを追いかけて飛び乗る方法があるのです。その名も“ロデオ法”! オーストラリアの研究者が確立したこの手法を学びに、クイーンズランド大学に半年間の研究留学をしました。おっかなびっくりではありましたが、なんとかロデオ法を習得することができました。
 ジュゴンの音響バイオロギングを実現するために意気揚々とむかったのはアフリカのスーダン。共同研究者と捕獲練習を繰り返し、アフリカ大陸初の捕獲が成功したときは皆で興奮したものです。ジュゴンから回収した GPS 機能付き録音機には尾びれを振る音が記録されており、そのパターンから休息と遊泳を判別したところ、ジュゴンは夜間に、捕獲された場所に戻って休息していることがわかりました。バイオロギングをすると個体数は限られるものの、詳細な行動パターンを調べられます。
 ここ最近は、ジュゴンだけでなく小型魚類の行動追跡にも取り組んでいます。ジュゴンの鳴き声の解析で用いる音響解析技術を応用することで、発信機を装着したウナギやマグロ幼魚の居場所を数十センチの誤差で特定できるようになりました。
 今後、音響バイオロギングと受動的音響観察を併用してジュゴンや小型魚類の謎をどんどん解き明かしたいです。

ニュースレター38号 2016年2月 新人紹介