施設紹介 海域ステーション 瀬戸臨海実験所

瀬戸臨海実験所 宮﨑 勝己


 本実験所は紀伊半島西岸、和歌山県白浜町の西北端より紀伊水道側へ突き出た番所崎(ばんしょざき)の頚部に位置し、北は田辺湾、南は鉛山(かなやま)湾に面する。
 黒潮分流の影響の下、気候は温暖で、年平均気温は17.2℃(2003年)に達する。付近の海域も同様に温暖で、番所崎周辺の表面水温は、年平均で約20℃、冬期でも12℃以下になることは稀である。複雑な地形・底質と相まって、周辺海域の生物相は非常に豊かである。
 実験所の歴史は、1922年の京都帝國大学理学部附属瀬戸臨海研究所の開設に遡る。その後、瀬戸臨海実験所への改称、大学院化(理学研究科附属)等を経て、2003年にフィールド科学教育研究センター海域ステーションへ改組された。
施設の特徴
 本実験所の敷地面積は約4.1 ha、研究棟・水族館・宿泊棟等からなる建物は5,680 m2に及ぶ。またそれとは別に、田辺湾南東部に位置する畠島(はたけじま:約2.7 ha)全島を実験地として所有する。この島は、ここだけで湾内一帯の海岸生物相を一通り観察できる事から、実験所の創設以来、研究・実習のフィールドとして利用されていたが、1960年代に浮上した観光開発計画を受け、環境保全の立場から1968年に国費で買い上げられた。現在も各種定点観測や実習の磯観察等が行われており、最近では、島の陸上植物相に関するモニタリング調査が、紀伊大島実験所と共同で始まった。
 また他の臨海実験所に例を見ない施設として、有料で一般公開される水族館がある。これは1930年の昭和天皇行幸一周年を記念した水槽室の一般公開に起源するもので、1955年には博物館相当施設に指定された。年間飼育生物数は600種8,000点を超え、そのうち400種近くを占める海産無脊椎動物の展示は、国内の水族館の中でも最も充実したものとして評価が高い。実験生物の飼育・観察の場や、実習や社会見学の場としての利用も盛んである。
研究・教育・社会連携
 本実験所はフィールドセンターの基礎海洋生物学部門を担い、海洋生物系統分類学・海洋生物進化形態学・海洋生物多様性保全学の三分野から構成される。伝統的に海産無脊椎動物を対象とした系統分類学及び生態学が盛んで、これまでに蓄積された実績は、センターが目指す「森里海連環学」の創生、またその具体的取り組みの一つである「古座川プロジェクト」の推進に、大いに寄与することが期待される。最近では分子生物学等の新たな研究手法を取り入れながら、生物多様性学・発生生物学等へも研究領域を拡げ、より総合的な海洋生物学的研究を推進している他、人的交流を含めた、国際的な研究活動も積極的に進めている。海洋生物学関係の蔵書が充実した図書室や、実験所発行の英文紀要(Publications of the Seto Marine Biological Laboratory)も高い評価を受けている。
 教育面では、京大理学部向け臨海実習を始め、京大他学部・他大学及び高校を含めた各種実習は、2003年度実績で年間28件、延べ1,800人・日余りに達する。最近では高校・中学教員による研修も加わり、本実験所の教育面で果たす役割は、ますます重要なものとなってきている。
 最近は社会連携にも力を入れ、地域住民や生徒を対象とした自然観察会や、水族館のガイドツアー(本号記事参照)等を開催している。

ニュースレター4号 2005年 2月