ILASセミナー報告2016「フィールド実習“森は海の恋人”」

基礎海洋生物学分野 教授 朝倉 彰
助教 中野 智之


 この実習は毎年気仙沼の舞根にある舞根森里海研究所を拠点として行っている。ここはNPO法人「森は海の恋人」、京都大学フィールド科学教育研究センター、日本財団によって管理・ 運営されており、教育施設、研究所としての機能を併せもっていて、1年を通じて多くの実習が行われ、また研究者によって利用されている。このILASセミナーにあっては、同法人の畠山重篤さん、畠山信さんにお世話になりながら実習を行っている。
今回の実習は昨年度に引き続き、2つのテーマ、「東日本大震災の復興の様子の見学」、「「森は海の恋人」の標語に代表される気仙沼の海と森の自然の豊かさ」である。実習は8月21日から4泊5日で行い、参加者は6名であった。また大震災で両親を失った子供たちを支援するCivic Force(大規模災害の支援を行うためのNPO/NGO・企業・政府・行政の連携組織)から、3名の高校生が同行参加する抱き合わせがたの実習となった。
初日は、大震災のあとに出来た海に隣接する湿地の見学をした。巨大地震によって大規模な地盤沈下がおき、そのために新たな地形がたくさんできた。舞根森里海研究所の近くにも大きな湿地が出現し、生物の進出が始まったが、この湿地には多数の日本固有の水生植物、動物がみられるようになった。舞根森里海研究所では、その生物相のモニタリング調査を継続的に行っている。さまざまな種類の魚が多数群れているのが見えた。
二日目は、大震災後に気仙沼周辺の地域で作られつつある津波よけの堤防の見学をした。堤防には、さまざまなものがあり、それを見学した。高さ15 mある垂直壁の堤防、断面が台形でゆるやかに傾斜していて津波の圧力でも倒れることのない堤防、津波が来るようすを内陸側から見ることができるアクリルの窓付きの堤防などを見学してまわった。
三日目は「森は海の恋人」運動の原点となった室根山に登り、室根神社に行きそこにあるブナ林を見学した。そのあと大船渡線の近くを流れる大川に行き、ダムの建設が自然に与える影響についての見学をした。
四日目は、豊かな森が豊かな海をつくる、という理念のもと活動を続けている畠山重篤フィールド研社会連携教授のご指導の下、山に植林をする体験学習を行った。また、実際に植林した山が実際に10年後にどうなっているのかを、「ひこばえの森」で見学した。そこは緑の美しい豊かな森となっており、肥沃な林床の黒土、湧き出る清水、などそこで、はぐくまれている自然を満喫した。
毎年このセミナーを行っているが、大震災からの復興はゆっくりではあるが、着実に行われているが、一方で海岸地域における自然と、巨大堤防の共存の問題等、さまざまな課題を考えさせられるものであった。