ポケゼミ報告2009「森里海のつながりを清流古座川に見る」

里地生態保全学分野 梅本 信也 准教授


 2009年8月24日(月)から28日(金)まで古座川流域と串本湾岸域における里域系連環をメインテーマにしたポケゼミが行われた。初日から最終日まで比較的天候に恵まれ,朝晩は涼しく過ごせた。参加予定者10名のうち,諸事情で3名が欠席した。
 初日はガイダンスと資源生物学調査指南を行った。「古座川合同調査報告集・第1,2,3巻」,「清流古座川物語」などの資料を配布し,古座川流域と串本湾岸域の概観,地形,気象,植生,土壌,生物相,文化相を把握させた。今年度は,昨年に引き続き,聞き取りと観察により,ハレ食文化から里域系連環における現状と課題を探るもので,具体的には古座川流域および串本湾岸域における祭り寿司と正月料理である雑煮の地域内多様性とその成立要因と歴史的変容を明らかにすることがテーマである。ガイダンスの後,紀伊大島実験所構内に広がる照葉樹林で同定実習と資源的価値に関する野外観察を実施した。
 第2日は各班2から3名ずつ合計3班を組み,中流域の明神地区,串本湾岸域の樫野地区を訪問,聞き取り調査を行い,聞き取り調査用食文化シートを手がかりに情報提供者ごとの基礎カルテを作成した。時間の制約もあったが,地区当り4~12名の情報提供者からの聞き取りが行えた。学生にとって聞取り調査はまったくの初体験であり,南紀方言の問題,学生同士の心的距離などと最初は不慣れであったが,相手の心に自己の心を同調させる術も体得し,急速に調査技術が向上した。移動中の車内では積極的な仮報告が続いた。各学生の目の輝きが顕著に増加しているのが印象的であった。
 第3日は下流域の古座,西向地区,串本湾岸の大島地区を訪問,同様の作業を行った。
 第4日の午前は古座川の地質学的サイトや中流に位置する七川ダムを見学,一部の班は中流の相瀬地区で追加・補足的現地調査を行った。午後からは基礎カルテを集結,全人数分を複製して配布,情報の共有化を図った。分量はA4のレポート用紙で厚さ2cmであった。この基礎カルテをもとに森里海のつながり,古座川との関係,食文化,地域性,歴史変容といったキーワード内容で表現されるレポートを各自作成した。結論から言えば,古座川流域および串本湾岸域ではサンマ寿司に供する魚の捌き方法に背開きと腹開きが認められ,類型分布と河口からの距離との間に地理的傾斜が確認された。雑煮料理については醤油&鳥肉出汁が基本の関東型と判定されたが,モチ形状については関西型の混合型であった。
 第5日目は,宿泊施設の片付け,発表会,レポートならびにアンケート提出が行われ,正午前に解散となった。気恥ずかしさや気後れさが感じられる初日とは打って変わり,これまた例年通りではあるが,共同作業と共同自炊を,規則正しい共同生活を重ねるに連れ,学生の顔や言動にエネルギーが満ち溢れていくのが指導教員として大変に嬉しく思われた。