環境DNA研究の最前線:海水から魚の量や種類を知る技術

里海生態保全学分野 益田 玲爾


 環境DNA分析とは、水や土の中に残るDNAから、生物の在不在や生物量を明らかにする技術です。舞鶴水産実験所では、2013年度から科学技術振興機構による戦略的創造研究推進事業(CREST)の支援を受け、「環境DNA分析に基づく魚類群集の定量モニタリングと生態系評価手法の開発」(代表:龍谷大学・近藤倫生教授)の一翼を担っています。このプロジェクトのゴールは、海にいる魚の量や種類について環境DNA分析で調べる技術を確立することです。舞鶴湾を主なフィールドに展開している環境 DNA研究の最前線についてご紹介します。
 環境DNA分析では通常、1リットル程度の水を採取し、DNAを含む微細な断片をフィルターで濾し取ってDNAを抽出します。分析の際に定量性を重視する場合には、対象種のDNAに対して特異的なプライマーと呼ばれるDNA断片を用いて、対象種のDNAをPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)で増幅し、量を推定します。また多様な生物の有無について調べたい場合は、その分類群に汎用のプライマーでDNAを増幅し、遺伝子配列のデータベースを参照して生息種を特定します。
 水槽実験では、魚の量が増えるのと比例して、検出されるDNAの量も増えることがわかりました。また、魚に餌を与えなければ、DNAの放出量には昼夜で違いがありません。
 続いて、舞鶴湾内の100地点で採水を行い、マアジのDNA量を分析するとともに、魚群探知機によって生息密度を推定しました。その結果、魚群探知機でマアジが多く検知された地点では本種のDNAが多く検出されました。
 今年の7月、プロジェクトのメンバーで手分けして、全国一斉の採水を行いました。この分析結果により、日本の魚類の分布地図は大きく塗り替えられる可能性があります。
 一方、2年半前から環境DNAによる長期的なモニタリングに着手しました。舞鶴水産実験所の桟橋で毎週1回採水して環境DNAを分析し、これを過去16年にわたり毎月2回行ってきた潜水目視調査の結果と照合しています。
 環境DNAはクラゲにも適用可能です。当実験所の桟橋で毎朝記録しているクラゲの数の推移と、ここで採取した海水から検出されるクラゲの環境DNA量は、よく一致しました。クラゲの大発生を予測し対策を講じる上での新兵器としても、環境DNAが注目されています。
 現在、無脊椎動物や植物に適用可能なプライマーも開発されています。多様な分類群を対象とする森里海連環の研究においても、環境DNA分析がブレークスルーになるものと期待されます。

(参考)研究論文の公開 海水からの環境DNA解析を潜水目視調査結果と照合

ニュースレター43号 2017年10月 研究ノート