白浜水族館特別企画展 「ヤドカリと貝殻-生態と芸術-」 を開催

瀬戸臨海実験所長 朝倉 彰


 表記の企画展が2017年7月8日から10月22日まで、白浜水族館にて開催されています。ヤドカリ類は、甲殻類の中でも特に多様性の高いエビやカニの仲間である十脚類に属し、主として軟体動物の巻貝の貝殻を背負って生活する特殊な生態をもつ分類群です。瀬戸臨海実験所では、ヤドカリ類の分類学や生態学の研究を進めてきました。また白浜水族館では、南紀白浜にみられる様々なヤドカリ類を飼育展示しています。
 世界で活躍する現代美術家のAKI INOMATAさんは、ヤドカリ、ミノムシ、インコなどの生物との恊働作業によって、社会における様々な境界を問いかけるプロジェクトを展開しています。特に、3Dプリンタを用いて都市をかたどったヤドカリの殻をつくり実際に引っ越しをさせる「やどかりに『やど』をわたしてみる」という作品は有名で、今回もそれらの一連の作品を中心に展示がなされています。
 この企画展では「ヤドカリと貝殻」に関する我々の研究成果とINOMATAさんのヤドカリ作品を、コラボさせることによって、エンターテイメント性の高い展示を制作しました。また実際にINOMATA作品を背負わせた生きたヤドカリを飼育展示しており、元気に動き回る様子を見ることができます。
 ヤドカリ類にとって貝殻は、魚や他の甲殻類の捕食から身を守るポータブルなシェルターで、そのおかげで、ヤドカリ類は捕食の危険にさらされることなく、昼間でも活動ができます。INOMATA氏は、この貝殻に自身のアート作品である世界の都市の建物を乗せたものを背負わせ、自然物と人工物の非調和が生み出す特殊な表現をすることによって独自の世界を形成しています。
 熱帯に起源を発する人間は、文明の発達とともに、みずからが築き上げた集落で安全に暮らすようになり、それが発展して現代の都市になりました。しかし一方、大都市で暮らす人間は、自然をもとめてそこに回帰しようとする心理が働くことがあり、ある意味これは当然の心理かもしれません。INOMATA作品の特殊な人工物を背負うヤドカリの姿は、現代文明の「都市」で生きる人間の生活のようでもあり、非常に象徴的です。

(参考)イベント案内 白浜水族館特別企画展「ヤドカリと貝殻―生態と芸術―」

ニュースレター43号 2017年10月 社会連携ノート