実習報告2017 「森里海連環学実習I:芦生研究林-由良川-丹後海のつながりを探る」

里海生態保全学分野 教授 山下 洋


 京都府の北部を流れる由良川は,芦生研究林を源流とし若狭湾西部の丹後海に注ぐ。本実習では,森林域,里域,農地,都市などの陸域の環境が,由良川の水質,生物多様性,沿岸域の生物環境にどのような影響を与えているかを分析し,川を通した森から海までを生態系の複合ユニットとして,科学的に捉える視点を育成することを目的としている。今年度は15人(本学10人;農学部5人,理学部1人,医学部1人,工学部1人,文学部2人,他大学5人;東京農工大学2人,京都学園大学2人,宮崎大学1人)の学生が参加した。日程は以下の通りである。

8月6日(日) 京都大学(吉田キャンパス)集合後実習概要と安全に関する講義,芦生研究林へ移動して午後は研究林長治谷周辺で森林観察,由良川源流調査,夜は研究林の概要についての講義
8月7日(月) 由良川上流~下流までの河川調査(水質,生物,流域景観),舞鶴水産実験所にて水質分析
8月8日(火) 午前中は由良川河口,神崎浜調査,午後は舞鶴水産実験所にて,生物の分類,水質分析
8月9日(水) 舞鶴水案実験所において,生物の分類,消化管内容物分析,水質分析,データ解析とまとめ
8月10日(木) 舞鶴水産実験所において,データ解析とまとめ,レポート作成,報告会,その後京都大学(吉田キャンパス)へ移動し解散

 実習の内容は,芦生研究林における森林構造観察,鹿による食害の影響やナラ枯れ被害木の観察,土壌調査,由良川に沿って芦生研究林内の源流域から美山,和知,綾部,福知山を経由して丹後海に注ぐ河口域までの水質(水温,塩分,電気伝導度,溶存酸素,COD,硝酸態窒素,亜硝酸態窒素,リン酸態リン,珪酸,懸濁物質)調査,魚類,水生昆虫,プランクトン,底生動物などの水生生物の採集調査および土地利用様式の調査である。調査地点を,芦生研究林長治谷の由良川源流,森林域を流れる上流(美山川),大野ダム湖,中流(和知),農業地帯を流れる犀川合流点,市街地を流れ下水処理場排水が流入する和久川合流点とした。これらのフィールド調査を通して,森林,水田,耕地,都市などの流域の土地利用や河川を横断する構造物であるダムが,水質や水生生物の群集構造にどのような影響を与えているかを解析した。今年度は,水質班,プランクトン班,ベントス班,魚類班,の4班に分けて得られたデータを解析した。水質班は栄養塩の組成から基礎生産の制限要因,プランクトン班は大野ダムの放水と珪藻の生産の関係,ベントス班は水質と水生昆虫の組成,魚類班は過去のデータとの比較から種組成を決める環境要因,などに焦点を当ててデータ解析と考察を行った。実習を通して安全の確保,森林観察,マイクロバスの運転,調査地の草刈り,栄養塩の分析などを担当くださった技術職員の皆様に感謝申し上げる。