和歌山研究林における精密森林情報整備と地域共同連携事業

和歌山研究林長/森林育成学分野 准教授 長谷川 尚史


 和歌山研究林は全面積842ha中,約450haが人工林であり,フィールド研の研究林・試験地のなかでは最も人工林率が高い。しかし多くが急傾斜地であるため,直営での搬出作業は一部に限定されている上,採算の合う形で搬出できる事業体も地域にはほとんどない。また近年は新植事業も行われてこなかったため,20年生以下の人工林はほとんど存在せず,学生実習等に適した小径木の確保が困難になってきている。さらに,現在の事務所および研究棟は仮事務所として林道沿いに移設されたプレハブであるため,大規模な学生実習等に供することのできる宿泊施設がない。これらの状況は,利用者数の低迷,事業費の減少,路網や施設の未整備,森林の手入れ不足といった悪循環を生む状況であった。加えて2011年の紀伊半島大水害で大きな被害を受け,2015年に災害復旧工事が完了するまで入林が不可能なエリアが多かったため,一時は利用者数が延べ232人にまで落ち込んだ。
 こうした状況を打開するため,和歌山研究林では精密な森林情報の整備と地域共同連携事業の拡大を行い,利用促進と教育研究のための森づくりを推進している。森林情報の整備は以前から和歌山研究林が注力してきたもので,現在も林内140箇所の固定標準地を維持し,教育研究に活用しているが,さらに高密度LiDARデータ(20点/m2)を取得し,50cmメッシュの微地形図のほか,スギ・ヒノキ造林木の単木データ(位置,樹高,推定胸高直径,推定材積等)等を整備した。現在はドローンを活用したデータ更新手法の開発等にも取り組んでいる。
 一方,2014年度には和歌山県立有田中央高等学校と高大連携協定を締結し,2002年に開始した清水分校3年生向けのウッズサイエンスや1年生向け森林ウォーク事業の充実を図った。ウッズサイエンスは1年間,毎週研究林等で森林に関する講義や実習を行うプログラムであり,修了生からは地域の森林組合等に就職する生徒も生み出している。2016年度の受講生も設立されたばかりの和歌山県農林大学校林業研修部に進学するなど,その成果は地域でも認知されつつある。また2015年度には,地域の森林資源の有効活用と森林の多面的機能の発揮を目的に,和歌山県・マルカ林業(株)と産官学連携協定を結び,木材収穫・共同販売・人材育成・森林環境教育等の検討と実践を行っている。この取り組みは,地域の森林管理主体者がそれぞれ個別に森林経営を行うだけでなく,森林管理の方向性を共有することによって,路網の共同利用や木材の共同販売,高能率な作業システムの導入を図るものである。同年,有田川町でも素材生産効率の向上と新たな需要の創出を目的とした林業活性化協議会が設立され,和歌山研究林も参画して,作業システムの改善や,地域の薪需要の掘り起こし,小規模木質バイオマス発電所の誘致などに協力している。
 さらに,2017年2月には清水森林組合と共同森林整備協定を締結した。これは,和歌山研究林の森林を教育研究のために最大限機能を発揮させること,地域林業の持続的森林管理技術の向上に寄与することを目的とする協定で,具体的には和歌山研究林が一部の林班で策定した森林経営計画の実行のために,清水森林組合に協力の元,森林経営計画に沿った路網作設と間伐,研究利用者が安全に使用できる路網整備を実施するものである。この協定によって,従来は林内に放置せざるを得なかった間伐材が,奈良県の木質バイオマス発電施設で利用される効果も得られている。さらに直営による小面積皆伐による新植地の造成や路網作設なども再開しているところである。
 これらの取り組みによって,徐々に地域全体の森林整備費用の低コスト化が進展し,これまで採算が合わず放置されてきた森林を教育研究のための森として再整備できつつある。整備が進むことによって,2017年度には利用者が豪雨災害前から倍増(延べ1,601人日)し,上記の悪循環が解消されつつある。現状では大規模な学生実習が実施できるような施設整備は困難であるが,今後もこれらの取り組みを継続,拡大し,日本や世界の森林に関する教育研究に貢献できる施設としての機能を充実させていきたいと考えている。

年報15号