ポケゼミ報告2010「環境の評価」

森林資源管理学分野 吉岡 崇仁 教授


 A・B群のセミナーとして開講し、自然環境を評価することの意味について、自然科学的、社会科学的側面から解説と討論の形式で実施した。受講生は、工学部3名、農学部3名、理学部2名、総合人間学部1名、医学部1名の合計10名であった。教室で8回の講義形式の授業と芦生研究林での合宿を実施した。
 教室でのゼミでは、「環境を評価する」とはいったいどういうことかという点について、環境の持つさまざまな価値を人間が認識し、自らの態度や行動を決定する際には、その環境の価値を判断している、という枠組み設定に基づいて議論を進めた。
 講義のはじめの段階で、環境を評価するということの意義について各自の意見を求めると、環境保全や人間が自然と共生するために必要であるという意見とともに、そのためには自然科学的に数値化する必要があり、それが環境の評価であるという踏み込んだ意見も出され、活発な議論でゼミが進んだ。人びとの価値観が多様であることに気づいている学生もいて、環境を評価する目的は環境についての価値観を共有することにあり、それによって環境を良くすることであるという議論に発展していった。また、自然環境を金額で評価するということに関しては、よくないという意見が多いようであったが、議論する内に環境を守るために評価することもあるということに同意する学生も増えていった。毎回のゼミ終了時に提出する感想を読むと、自らが考える中で自問自答しながら意見をまとめようとしている様子が見て取れる。ポケット・ゼミでは、学生の意見を如何にすくい上げ議論することが重要であるのか再認識した。森林の多面的機能の中でよく似たものをグルーピングした際には、人間にとっての森林の利用の観点からグループ分けする傾向が見られ、「環境の価値」の議論に入ることが容易であった。価値の分類から、自然に対する価値観が人間中心主義的であるか非人間中心主義的であるかの検討をし、「自分が考える地球温暖化解決法」について討議することで、それぞれが立場を議論した。レポートは、環境に関する新聞等の記事を選び、そこに含まれる「環境評価」の文脈の抽出と解説を課した。芦生研究林での合宿は、8月10-11日に実施した。あいにくの天候であったが、長治谷のシカ排除実験地の観察(写真1)や植生の説明をうけ、夜にはそれぞれのレポートの内容を発表して、意見を交換した(写真2)。

写真1 芦生研究林長治谷シカ排除実験地の観察
緑色のネットの向こう側がシカ排除区、手前が非排除区。排除区には、ススキをはじめ多くの草本が生育しているが、非排除区の植生は極めて貧弱である。足もとの白い網カゴ状のものは、非排除区の埋土種子あるいは排除区から供給される種子からの生育の有無を確かめるミニ排除区。

写真2 芦生研究林宿泊施設内の食堂でレポート発表
研究林内の観察時に拾い集めたトチの葉を前に、各自のレポートを発表し、お互いに議論した。