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「芦生の森」における研究者と地域との協働に基づく学際実践研究

芦生研究林長/森林育成学分野 准教授 石原 正恵

 日本各地の農山村では,過疎化・高齢化という「里の衰退」が進行している。先進的な地域づくりを行ってきた農山村も例外ではない。一方,日本各地で「森の衰退」も進行している。各地でニホンジカの個体数が増え,過採食により森林植生が衰退した。これらの課題に向けた研究は,各々異なる研究視点で研究され,森と里のつながり(連環)を意識した学際的で総合的な課題解決に向けた研究は十分ではなかった。さらに地域の多様な主体との相互理解・協働が不十分であったため,地域課題への適用も限られ,森と里の衰退の進行を抜本的に解決できていない。
 そこで,2018 年10 月より日本生命財団 学際的総合研究助成を受け,本研究プロジェクトが始まった。本研究の目的は,森と里の連環学に基づき,研究者と地域の多様な主体が協働し,豊かな森と里への相乗的な再生策を実践的に提唱することである。自然科学と人文社会科学の研究者が協働するだけでなく,研究者と地域の多様な主体が協働し,研究計画の立案(Co-design),研究知見の創出(Co-production),保全・再生活動の実践(Co-action/Co-delivery),森と里の再生へのインパクト評価(Co-evaluation)までを行う。こうした研究者以外との協働を含む研究は「超学際研究(Transdisciplinary Research)」と呼ばれ,Future Earth 等の国際的なプログラムの中でも新たな科学のスタイルとして実践されている。
 本プロジェクトでは,トチノキの保全と活用,わさびを材料とした森の豊かさの発信・経済価値化,希少植物種の域外保全,効果的な植生回復方法の解明,科学的成果の観光業への活用,ガイドツアーとの共同調査と活性化などを進めてきた。トチノキの保全と活用では,栃の実の資源量調査や伝統食である栃餅づくりを地域の方と一緒に行い,地域知や伝統知を学ばせていただき,加工・流通について記録を残し,またトチノキの更新が著しく阻害されている実態も明らかになった。また教育素材として,公開森林実習I やミャンマーの林業大学の実習等にも活用した。また採取したトチノキの種子は英国王立Kew 植物園へ提供し,Millennium Seed Bank Project へ協力した。栃の実の利用ルールのもと,伝統利用が引き継がれ,生活・教育・観光等に活用しながら,関係人口を増やし,トチノキを保全していくことを目指している。
 こうした取り組みをすすめるなかで,人材不足よりも,人と人の繋がりというものが重要ではないかと考えるようになった。美山町に関わる研究者同士,地域と研究者,地域の方同士が繋がり,研究成果を共有し,協働を促進する場の創出を目指し,2020 年2 月21,22 日に「美山×研究つながる集会」を京都丹波高原国定公園ビジターセンター運営協議会と共に主催した。約25 人の研究者,約45 人の地域の方が参加し,活発な意見交換が行われ,こうした取り組みをビジターセンター等とも協力し発展させていくことになった。
 このように1 年半という短期間に多くの成果が花を開きつつあるのは,芦生研究林が約100 年にわたって地域との関わりを持ってきたこと,多様な関係者と対話を続けたこと,多くの地域の方に協力いただけたこと,コーディネータ役となる地域の人材の存在などのおかげである。こうした超学際研究に必要な要素をまとめ,「超学際研究」を単に社会貢献ということではなく,新たな研究分野として昇華していくことを目指している。

年報17号 2019年度