社会連携事業「京と森の学び舎」の進捗について

研究推進部門 連携助教/森里海連環学教育研究ユニット 特定助教 赤石 大輔

 森里海連環学教育研究ユニットが日本財団との連携事業として実施した森里海連環再生プログラム(LAP:Link Again Program:2020年3月に終了)の社会連携活動の一環として,2018年12月21日から「京と森の学び舎(みやこともりのまなびや)」(以下,学び舎)を開催した。本事業は,公益財団法人自然保護助成基金の助成を受けて実施している(第29期,30期採択,申請代表者は赤石)。参加者は京都市を中心に関西一円から集まった20~40代を中心とした男女約20人である。
 第1期は24人が受講。2019年9月29日に終了し,18人の修了者に山下洋森里海連環学教育研究ユニット長と德地直子フィールド科学教育研究センター長の連名で,修了証を授与した。修了者には合わせて森里海コミュニケーターの称号を授与し,今後のフィールド研での社会連携活動や市民科学の実践に向けた協働のパートナーとして活躍していただく予定である。
 第2期は2019年12月1日からスタートし,2020年11月まで実施予定で,現在26人が受講中である。第1期は芦生研究林を中心に,森林について学ぶ座学やフィールドワークを実施してきた。第2期では川や海についても学ぶ機会を作り,より総合的に森里海連環学を学ぶプログラムを構築した。第2回の講義では,舞鶴水産実験所の邉見由美研究員に講師として参加いただき,干潟の生物についての解説をしていただいた。今後は舞鶴水産実験所でのフィールドワークも予定している。
 森里海連環学は森と海と人との繋がりを明らかにする学問である。学び舎ではその哲学のもと,自然環境や人間社会における様々な課題はお互いにつながっており,単体では解決できない複雑で重層的な課題になっていることや,私たち一人ひとりがその課題とつながっていることを学び合うことを目的としている。そのため講義で扱う内容は自然科学にとどまらず,講師も京大内外から多様な分野の講師を招いて実施している。一例として,2019年12月18日に小俣直彦氏(オックスフォード大学国際開発学部 准教授),田中克氏(名誉教授),畠山重篤氏(社会連携教授)を招き,学び舎の特別講義「つながりの断ち切られた社会で希望を見出す~難民問題と森里海連環が示すもの~」を開催した。一見次元の異なる課題と思われる難民と森里海について,「分断」という視点で俯瞰することで共通する部分に気づき,より理解が深まることを参加者とともに体験した(詳細はフィールド研ウェブページの社会連携紹介ページ(https://fserc.kyoto-u.ac.jp/wp/social/)を参照)。このように,森里海連環学は様々な社会課題を研究者と市民がともに学ぶことができる超学際的研究のプラットフォームとして活用可能な事がわかった。今後は,企業の生産活動や市民の消費行動をより循環型にしていくための市民との学び合いの場として,新たな学び舎の実施を検討している。

年報17号 2019年度