実習報告2021 「森里海連環学実習I:芦生研究林-由良川-丹後海のつながりを探る」

森林情報学分野 助教 中西 麻美


実習生:本学5名(法,教育,総合人間,医・人間健康,農・森林)1~3回生
    岡山理科大1名 1回生

教員:益田,甲斐,鈴木,邉見,石原,中川,中西
技術職員:柴田,永井,向,中村
TA:舞鶴水産実験所の院生4名(Zoom)

 本実習は,森林域,里域,農地,都市などの陸域の環境が,河川水質,生物多様性などにどのような影響を与えているかを観察し,森から海までの流域を複合したひとつの生態系として捉える視点を育成することを目的とする。このため,芦生研究林を源流とし丹波地方を流れ若狭湾西部の丹後海に注ぐ由良川をフィールドとして,源流域の森林の観察,河川の魚類および無脊椎動物,プランクトンの採集と同定,環境データの取得,水質の分析等に取り組む。
 2020年度は新型コロナウィルス(COVID‑19)感染拡大防止のため,やむなく不開講としたが,今年度は感染防止対策を講じながら実施可能な方法を4月から検討し,状況に応じたプランを策定して臨んだ。その結果,定員の大幅減員(20名を6名に),行程の変更(集合・解散場所,調査地点の一部,芦生1泊+舞鶴3泊のところを舞鶴に最大1泊,など),4日目以降はオンライン形式,調査項目の圧縮等を行い,8月5日~9日に2年ぶりに実施した。7月に東京都に緊急事態宣言が発令されたが,京都府では実習前および期間中に発令されなかったので,学内の活動制限のガイドラインのレベル1に対応する内容(舞鶴に1泊)とした。本学5名(法,教育,総合人間,医・人間健康,農・森林の1~3回生)と公開実習生1名(岡山理科大1回生)が参加した。なお,緊急事態宣言発令地域にある東京海洋大の参加希望者には残念ながらご遠慮いただくこととした。また,宿泊地の舞鶴水産実験所では,COVID‑19の影響下で宿泊ありの実習を1年以上実施しておらず,京都府でも緊急事態宣言の発令が懸念される状況であったために夕食提供の対応が難しく,各自が買い出しすることで対応した。
 初日の朝は園部駅に集合し,柴田さんと永井さんが運転する車に分乗して芦生研究林へ向かった。芦生では幽仙谷調査区の森林を観察し,構内では資料館の見学を行った。加えて,行程が短縮されて訪問できなかったシカ排除柵の様子をVRで体験した。午後からは構内横を流れる由良川で,魚類・水生昆虫を中心とした無脊椎動物の採集,および試料水採取等の調査を開始した。これまでは長治谷から少しさかのぼった辺りを最初の試料採集・採水地点としてきたが,今回は芦生構内から調査を開始した。その後は,大野ダムと中流域の和知で調査を行い,宿泊地の舞鶴水産実験所へ向かった。この夏いちばんの暑さと朝早い集合で疲れた中ではあったが,夕食後には採水した河川水を分析した。2日目は,まず由良川河口の舞鶴市神崎へ向かった。閉鎖されている神崎海水浴場では地元観光協会の許可を得て,いつもなら海水浴客でにぎわう砂浜で水質測定と採水のみ行った。それから,河口へ移動して水質調査のほか生物採集を行った。その後は,由良川の上流側へ移動し,福知山と綾部の調査地点で水質調査と生物調査を行い,午後の早い時刻に調査を終了した。そして綾部駅で一旦解散とした。
 3日目は,農学部総合館において魚類・水生昆虫等の観察と同定および魚類の胃内容物分析を行った。舞鶴で実施する際には多くの図鑑や本を自由に使えるが,限られた資料と各自スマホで検索しながらの作業となった。また,由良川の魚類とプランクトンについての講義も提供した。採水した試料の栄養塩類の分析は,舞鶴で向さんが実施することで対応した。4日目はオンライン形式で講義とデータ解析を行った。TAの院生はここから参加した。休日にも関わらず,企画情報室の中村さんがオンラインで指示してくれたおかげで,フィールド研会議室のオンライン会議システムを急きょ使用することが可能となった。最終日の5日目もオンライン形式で行い,実習生は1人ずつ,それぞれ独自の視点とテーマで解析した成果を発表した。例年は10名以上の実習生を数名ずつのグループに分けてグループごとに解析と発表をしていたが,今回は個人個人で取り組んでもらった。着眼点,考え方など非常に個性豊かな内容で,実習生の集中力と観察力が大いに伝わる中身の濃い充実した発表会となった。参加者同士が接する時間はこれまでよりも少なくはなったが,年度当初から講義をオンライン方式で受講してきた実習生は対面での機会を有効に使ってくれたようであった。
 我々スタッフにとっては,3日目まで車での移動がこれまで以上に多くなるなど,実施要領や段取りが変わったなかではあったが,無事に終えることができた。今回の経験と反省を踏まえ,来年度の実施に向けて準備していきたい。