森林の保全・教育・研究活動の促進のための包括連携協定締結

芦生研究林長/森林育成学分野 准教授 石原正恵

 京都大学フィールド科学教育研究センターは、森里海連環学を提唱しています。森里海連環というのは、森と里と川と海といった生態系がつながっているということ、また里というのは人間社会も含めて指しており、人と自然とがつながっていることを指しています。つながりを修復し、新しいつながりを創ることで、豊かな自然とともに持続的な社会を目指す。その取組を社会の様々な皆様と一緒に目指していく、それが森里海連環学です。こうした、様々な人との協働というのは、第6期科学技術・イノベーション基本計画においても、国立大学の目指す方向として謳われています。企業・自治体・NPO など多様な主体と連携し、新しい価値やイノベーションを共創していくことが目指されています。芦生研究林も森の保全と里の持続性をテーマに、地域の様々な主体と連携・協働を実践的に進めています。
 それらの取り組みの一環として、2022 年8 月に当センターと京都丹波高原国定公園ビジターセンター運営協議会(以下、ビジターセンター運営協議会)とが包括連携協定を締結しました。この国定公園は2016 年に設定され、ビジターセンター運営協議会は国定公園の優れた風景地の保護とその利用の増進を図り、地域の発展に寄与することを目的としています。一方、芦生研究林は、国定公園の第一種・第二種特別地域の大部分を占めており、ハイキング・ガイドツアーを通じ多くの市民に利用されてきました。さらに、当センターは芦生研究林の原生的な自然の保全を進めてきました。このように、自然を守り生かすという点において、当センターとビジターセンター運営協議会のミッションには多くの共通点があり、国定公園の設定以来、「京都丹波高原国定公園における研究・調査情報データベース」や「美山×研究つながる集会」など連携を図ってきました。さらに、国定公園の生態系や生物多様性の保全、持続可能な利用の促進、人材育成、および地域の発展に寄与することを目的として、包括連携協定を締結しました。
 また、2023 年3 月に芦生研究林とKDDI 株式会社(以下、KDDI)とが包括連携協定を締結しました。2019 年度に府民参加の森作りをすすめる京都モデルフォレスト協会からKDDI をご紹介いただいたことを契機として、翌年度からコロナ禍での教育・広報のためVR 教材の制作、社員ボランティア、LPWA を用いたIoT 鳥獣対策通知システム、入山時にテキスト通信ができるコミュニケーションツール、芦生研究林基金へのご寄付といった連携が展開されてきました。さらに、芦生研究林の生態系や生物多様性の保全、教育研究・普及啓発活動、DX や通信技術などを用いた活動の発展高度化に取り組むため、包括連携協定を締結しました。
 こうした多様な主体との連携・協働には、(1)つながりの和が広がっていく、(2)一人では解決できない課題を、異なる専門を持ったものが一緒に取り組むことで解決できる、(3)互いの考えや目標を理解し、学びあい、新しい価値が創造されていく、という効果があります。今後も多様な主体とともに、豊かな自然と持続的な社会の創出に貢献していきたいと考えています。

年報20号 2022年度 主な取り組み