実習報告2022 上賀茂試験地の里山整備と公開森林実習III「森林・里山の生態系サービスを学ぶ」

森里海連環学分野 特定講師 赤石 大輔

 公開森林実習III「森林・里山の生態系サービスを学ぶ」では、里山がエネルギーや食糧の供給場所として日本人の生活を支えてきた重要な生態系の一つであること、またその生態系サービスに関する学術的知見を体験的に学び、教員および技術職員との対話を通して、実習計画を自ら立案できるノウハウを修得するとともに、計画の実施を自らの責任で行う能力を醸成することを目標にしている。さらに今後10年20年と続く里山整備計画として、次年度以降につなげることを目指している。本実習は2020年度から、京都大学フィールド科学教育研究センター、里域ステーション上賀茂試験地にて実施している。2021年度から大学コンソーシアム京都の提供科目「特別森林実習III」となっている。
 受講生は計9人で、大学コンソーシアム京都への提供科目の受講学生が7人(京都教育大学(2人)、京都芸術大学、京都工芸繊維大学、京都産業大学、京都女子大学、佛教大学)と一般聴講生2人(京都大学大学院、滋賀県立大学)であった。スタッフは、吉岡崇仁・舘野隆之輔・赤石大輔と上賀茂試験地技術職員で、週末土曜日に5回開催した。

第1回(10月15日):ガイダンス、上賀茂試験地の紹介、里山整備エリアの見学。
第2回(10月22日):環境意識に関する講義、炭窯の火入れ。
第3回(11月19日):草木染め体験、シイタケの収穫、里山整備。
第4回(11月26日):炭窯から炭出し、里山整備エリアでのコンポスト作成。
第5回(12月10日):全体振り返り、次年度への引き継ぎ資料の作成。

 2022年度後半は、新型コロナウイルス感染症の感染者数も落ち着いており、公開森林実習IIIは当初の予定通り実施することができた。2年間実施してきた内容を踏襲しつつ、新たな試みとして、第3回の草木染め体験では、外部講師を招き講義と体験を指導いただいた。講師からは、草木染めが昔の里山の知恵としてノスタルジックな体験をするだけにとどまらず、現代の消費者のニーズに合う新しい商品として競争力を持つこと、広告に頼らない販売戦略があること、草木染めの製品をオーガニック素材で作るなどエシカルファッションについてお話いただき、学生たちも感銘を受けていた(図1)。また、里山整備エリアでは新たに落ち葉を使ったコンポストづくりを試行した。コンポストづくりは技術職員の支援により林内に複数設置することができた(図2)。
 最終回に、例年は学生が選んだ果樹の植樹を行うことになっていたが、当日、学生から里山整備エリアのコンセプトについて提言があり、長期的な計画が必要であることや、本来この地域になかった果樹を植えるのは問題ではないか、といった意見が出た。他の学生たちもその意見に概ね賛同し、急遽果樹の植樹を取りやめることになった。このような実習内容の急な変更は想定外であったものの、実習で伝えたい里山の価値や現在の社会において保全する意義につながる議論であったことから、歓迎できるもので、学生の主体性を尊重した本実習の特徴といえる。
 3年目になり、大学コンソーシアム経由では定員に達するなど人気の実習となった。OBも継続した参加を希望し、今年度も複数のOBが自主的に実習に参加し、保全作業や他の学生たちとの議論に参加していたことは、本実習が上賀茂試験地の環境や里山の面白さを伝える優れた実習であることを示していると考える。

年報20号 2022年度 主な取り組み