南極における海氷下の魚類研究

南極における海氷下の魚類研究

海洋生物環境学分野 市川 光太郎

 2022年11月から2023年3月にかけて、第64次南極地域観測隊(以降64次隊)に参加しました。感染拡大防止のため、64次隊は国内で1週間の隔離生活を過ごしてから、南極観測船しらせに乗船し、11月10日に横須賀から出航しました。しらせは赤道を通過してオーストラリアのフリーマントルに入港し、そこで最後の補給をしてから南極へむかいます。通常の隊次ではフリーマントルで観測隊が乗船するのですが、64次隊は横須賀からフリーマントルに至る航海も乗船したのです。長い航海をともに過ごすうちに、観測隊だけでなく海上自衛隊の方々との交流も増え、団結力のある隊次になったと思います。
 航海中はフィリピン沖での海上慰霊祭や赤道通過時の赤道祭等、海上自衛隊ならではの式典に参加させてもらえたことが印象に残っています。インドネシア島しょ部を通過したときには、皆が甲板に出て数週間ぶりにスマホを利用する姿もありました。横須賀を出航して約3週間かけてフリーマントルに到着し、そこからさらに約3週間の南極への航海が始まりました。
 南緯40度から60度にかけての海域は暴風圏と呼ばれる海域。風速20m 以上、波高7m 以上の大荒れの海を通過します。しらせの揺れは歴代最大の30度を記録しました。まるで洗濯機の中にいるような揺れで、朝起きると物が床に散乱していたほどです。南極大陸沿岸に広がる氷原に到着するといよいよしらせの本領発揮。氷を砕きながら少しずつ前進します。数日間の砕氷航行の末、12月23日に昭和基地付近に到着し、ヘリコプターで基地に入りました。

 私たち(通称お魚チーム、図1)の目的は昭和基地北側の北の浦において海氷下に生きる小型魚類の生態を調べることです。今回の64次隊では次の3つに取り組みました。①魚に発信機を装着して、どのような行動をしているか明らかにする、②環境DNA による観測技術の確立、③海氷下の水中サウンドスケープ観測技術の確立、です。
 ①の発信機装着について、結果から言うと大失敗に終わりました。持って行った発信機と受信機が全て低温下では正常動作しなかったのです。発信機の不具合については、別課題の隊員が睡眠時間を削って分解修理してくださったので、とても残念です。国内でできる事前確認を丁寧にするという手順の重要性が身に沁みました。②の環境DNA については、最も大きな成果が得られました。技術確立ができただけでなく、北の浦における魚類の分布を環境DNA から調べられそうという手応えも感じられました。③の水中サウンドスケープも予想外の成功でした。捕食者であるアザラシの鳴き声や海氷の割れる音(図2)を観測することができるようになったのです。海氷が割れる場所では海中に日光が入るため、光合成が促進されて植物プランクトンが増えます。食物連鎖を考慮すると魚やアザラシの行動に大きく影響することから、お魚チームの研究においても重要な要素となりそうです。
 今後、上記3つの観測技術を組み合わせて海氷下の魚類の行動を調べる計画です。引き続き、お魚チームの活躍にご注目ください!

ニュースレター64号 2024年10月

(参考)南極における海氷下の魚の行動追跡 ニュースレター49号 研究ノート 2019年10月