基礎海洋生物学分野 助教 山守 瑠奈
2023 年8 月25〜27 日に、ILAS セミナー「黒潮流域の生物自然史」を実施しました。4 人の1 回生が参加し、水族館見学・磯採集・プランクトン採集・近海産魚類の解剖を行いました。1 日目は到着してからすぐに水族館に行き、展示生物の見学を行いました。白浜水族館は動物門ごとに海洋無脊椎動物が展示されているので、それぞれの水槽の前で、主要な動物門の体のつくりを学びます。棘皮動物はウニ、ナマコ、ヒトデ、クモヒトデ、ウミユリ、と全く見た目の異なる5 綱に分けられますが、それらは五放射相称性や骨片等、共通する構造を持つことなどに学生さんは驚かれていました。
2 日目は、潮の都合上早朝から磯採集を行いました。磯採集では、ウニの巣穴の共生生物や共生藻類を持ったイソギンチャクの観察を行い、また一部の生物を同定・観察用に実験室に持ち帰りました。実験所が発行している磯の生物観察ガイドや専門的な図鑑を用いて、採集した生物を同定してゆきます。中には貝殻などを標本として持ち帰ろうという熱心な学生さんもいました。普段の生活の中で出会う動物門は食用種等に限られますが、磯ではヒラムシ(扁形動物)やヒモムシ(紐型動物)、イソメ・ゴカイのなかま(環形動物)等、今までおよそ目にすることが無かったであろう動物たちとも出会え、生物の多様さを学びました。また、ウニやナマコ、カメノテなどは体内や体表に寄生・共生生物が見られることがあります。実習中にも、カメノテの中に住むヨツメヒモムシ等、さまざまな共生生物を観察することができました。
磯観察の後は、市場に出て近海産魚類を購入しました。黒潮の洗う白浜では、外用性の魚が多く水揚げされるだけでなく、田辺湾に育まれる内湾の魚も見られます。観察と魚種の記録の後、幾つかの魚を購入して解剖観察用に持ち帰りました。魚類は脊椎動物なので、基本的な体の作りは人間とよく似ています。内臓などをひとつひとつ確認しながら魚類の体勢を理解し、そしてもう一歩踏みこんだ内容として、鰓や鰭、また体表に付く寄生虫を探しました。白浜近海で採れる魚類の寄生虫は少なく、学生さんがこの先魚を食べることを躊躇するような結果にはなりませんでしたが、鰓にわずかに吸虫類が見られ、皆で顕微鏡を覗いて動きや形を観察しました。
時系列が少し遡りますが、市場の帰りにプランクトン採集を行いました。漁港でプランクトンネットという目あい100μm ほどの網を投げ、動物プランクトンを採集します。これを実験室に持ち帰り、魚類解剖の後に顕微鏡で観察をしました。コペポーダの仲間をはじめ、数多くのプランクトンが観察されました。コペポーダは「海の米」とも呼ばれるほど海洋に卓越する一次消費者で、海洋の基礎生産の基底に近い位置において重要な立ち位置を持ちます。こうして、普段食卓に上がる魚類たちを支える生態系を学びました。最後に、夜間に水族館見学を行い、海洋生物の夜の行動を観察しました。昼間と変わって活発になる無脊椎動物や、底に沈んで静かに眠っている魚類などを観察し、昼夜で異なる海の様子にも思いを馳せました。3 日間で盛り沢山の内容でしたが、学生さんたちはレポートを中心とした事前学習・事後学習を含め、とても意欲的に取り組まれました。
年報21号 2023年度 主な取り組み