芦生研究林 荒井 亮
上賀茂試験地では樹木見本園を充実させるために国内外の樹種の導入育成が進められてきました。外国産樹種の導入においては、世界各国の植物園、大学、研究所との間で分譲できる種子のリストを送付し合って希望する種子を交換する国際種子交換事業(以下、種子交換)を行っています。海外から種子を導入して育成することで日本にいながら外国産樹木の実物を体感できる見本園を維持し、国内で採取した種子を海外の研究機関等へ提供してきました。しかし、近年は海外の遺伝資源入手に関わる手続きや輸入植物検疫制度の厳格化、国際郵便の通関電子データ送信義務化などにより業務が煩雑化して継続が難しい状況となっていました。このような折、種子交換を行っている武田薬品工業株式会社京都薬用植物園(以下、京都薬用植物園)と意見交換の場を持つことができました。これを機にお互いの強みを生かして連携することで、種子交換において双方が抱える問題点を解決しようという気運が高まり、2024年1月30日に事業連携を目的とした協定を締結しました。
上賀茂試験地は種子の採取を担当し、採取した種子の調整・精選技術を京都薬用植物園と共有します。フィールド研の強みを生かして上賀茂試験地のほかに芦生研究林や和歌山研究林、北海道研究林においても種子を採取して国内の多様な種子を収集、提供します。京都薬用植物園には輸出に必要な調製・精選作業、植物検疫に関する手続き、種子リストの作成、発送手続き、海外機関との輸入許可を含めた事務手続きを担当していただいています。
連携を開始した2023–2024年は海外の78機関から872種の提供依頼があり、上賀茂試験地が単独で行っていた2020–2021年と比べ、機関数、種数とも約2倍に増えました。これは互いの種子交換先リストの統合によるだけでなく、上賀茂試験地が有する調製・精選の技術と知識および種子の豊富さと、京都薬用植物園の調製・精選および各種手続きの遂行力が連携した成果です。研究教育の発展と生物多様性の保全に向けて連携を深めていきたいと思います。
ニュースレター67号 2025年11月
