ポケゼミ報告2011「フィールド実習“森は海の恋人”」

里山資源保全学分野 准教授 長谷川 尚史

 2011年度フィールド実習“森は海の恋人”を,8月22日から27日まで(移動日を含む)水山養殖場(宮城県気仙沼市唐桑町),ひこばえの森交流センター(岩手県一関市室根町)において開催した。本年3月に東日本大震災が発生し,水山養殖場も施設の大半が流出するという大変な被害を受けた。災害当初は例年,受け入れをしていただいている畠山重篤氏(京大フィールド研社会連携教授・水山養殖場)に連絡が付かない状況であった。連絡が付いた後でポケゼミの開催中止を検討したが,畠山氏から「こういうときだからこそ,学生に来てもらい,様々なことを学んで欲しい」と言っていただき,例年とはプログラムを大幅に変更する形で開催した。
 参加学生は経済学部,医学部,工学部からそれぞれ1名ずつの3名であった(予定は4名だったが1名が欠席)。このほかTAとして1名の農学研究科院生が参加し,また元センター長の田中克名誉教授にもご協力いただいた。宿泊したひこばえの森交流センターは,畠山氏らが植林活動を行っている森の近くに位置し,NPO活動の拠点となる施設である。本来は宿泊に供される施設ではないが,気仙沼市内の民宿が使用できなかったことなどから,無理をお願いして利用させていただいた。地元の方々によって大変おいしい地元食材を用いた朝夕食を提供していただき,また地元の方々とも交流をさせていただいた。
 8月23日朝に仙台駅に集合し,レンタカーで塩釜,松島,石巻,女川などの海岸沿いの町を経由して,夕方に気仙沼市に到着した。報道などで状況は知っていたが,生で見る災害の爪痕は,学生達に大きな衝撃を与えた。特に,水山養殖場のある舞根地区では,養殖施設だけでなくほとんどの家屋が流されており,現地を生で見ながら災害時の状況を畠山氏ご自身から聞いたことは,大変大きな体験となった。
 8月24日は畠山氏を引率者として,気仙沼湾にそそぐ大川を遡上し,河川水質と生物相の変化を観察した。最上流の「ひこばえの森」において,コナラ等の植林を行った。8月25日は舞根湾内の魚類等の生物相を,網によるサンプル調査等によって観察した。1ヶ月前にはまだ戻っていなかった稚魚や海草が復活しつつあるとのことであった。午後からは,流された筏を再建造するため,周辺のスギ林において伐採,搬出を行った。この際,ボランティアとして東京から来られていた井口孝男氏の指導を受けた。8月26日は筏づくりとともに,カキの稚貝が付いたホタテ貝の殻を養殖用ロープで繋ぎ,それを養殖筏に吊り下げる作業を行った。また畠山氏から森里海連環に関する講義を受けた。8月27日は陸前高田において1本のみ残った海岸のマツ等を見学し,昼過ぎに仙台駅で解散した。
 人類史上,稀に見る災害の状況と,そこから復興しようとする人々の努力を目の当たりにし,当ポケゼミは例年にない様々なテーマの学習機会となった。忙しい中,終始,プログラムにお付き合いいただいた畠山氏をはじめ,そのご子息の畠山信氏(NPO法人森は海の恋人副理事長)ほか,余裕のない復興活動の中で丁寧に対応していただいた現地の皆様に,心から感謝するとともに,一日も早い復興を祈りたい。なお,26日の晩は京都大学からのボランティア学生らが到着し,さらに議論を深めることができたことを附記する。