京都大学次世代研究者育成センター 佐藤 拓哉
私は今、カナダのブリティッシュコロンビア大学 森林科学科(正式には、Department of Forest Sciences, Faculty of Forestry, The University of British Columbia; 以下、UBC)で客員研究員として研究生活を送っています。所属している研究室は、John S. Richardson教授が率いるStream and Riparian Research Laboratory。河川とその周辺の陸域の生物を対象にした様々な研究が展開されています。森林と河川のつながりを深く理解し、それを損なわない森林管理について考えたい私にとって、ここはまさに!という研究室です。実は、Johnの研究室で研究することはドクターが終わる頃から何度か試みて失敗していたので、今回の渡航は念願かなって心躍るものでした。
昨年6月に渡航すると、私はさっそく、UBCの有するMalcolm Knapp Research Forest(MKRF)に足しげく通い始めました。MKRFには残念ながら、old-growth forestと呼べるような森林は残っていません。しかし、約5000 haの森林には、hemlock(ツガ属)やdouglas-fir(トガサワラ属)が優占する針葉樹林からred alder(ハンノキ属)などが優占する広葉樹林まで、様々な林分があり、その間を数多くの小河川が流れています。そのようなフィールドで私は昨年、Johnたちが約10年前に開始した大規模森林伐採試験地を利用させてもらい、森林管理が陸生昆虫類の河川への供給パターン(河川の生物群集にとって重要)に与える影響を調べました。ここでは、私自身が発見した「寄生虫が陸生昆虫の行動を操作して河川に飛び込ませることで、森林から河川へのエネルギー流を促進する」という現象にも注目し、森林管理が寄生者介在型のエネルギー流を損なわないかも調べました。調査は概ね順調に進み、相棒としてほとんどの調査に同行してくれたThomas君(フランスからのインターン学生)とともに、伐採地ごとの陸生昆虫量の違いや寄生虫の発見に一喜一憂していました。サンプルは鋭意分析中ですが、とても興味深い結果が得られつつあります。今年はこの研究結果をもとに、陸生昆虫量の供給パターン(量や季節性)の変化に対して、河川生態系はどのように応答するのか?といった疑問に答えるべく、大規模な野外操作実験を計画しています。この研究がうまくいけば、単に森林と河川のつながりが大事という視点から一歩前進して、両者の関係を予測可能なものに近づける(あるいは予測が困難なものだとわかる?)のではないかと考えています。
さて、UBCのあるバンクーバーは現在、冬真っ盛りで基本的に曇天です。フィールド生態学者を自称する私には、いささか欲求不満の貯まる日々です。しかし、森や川の生物たちが来たる春にむけてひそかに準備をしているように、私も学内での研究に集中しつつ、来たるフィールドシーズンに気持ちを繋いでいきたいと思っています。
ニュースレター26号 2012年3月 研究ノート