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研究活動

気仙沼舞根湾での潜水調査と気仙沼シンポジウム

舞鶴水産実験所が,気仙沼湾潜水調査を継続的に実施しています。(2011年度は2011年5月20~23日,7月18~20日,9月18~21日,11月28日~12月1日,1月25~27日,3月12~15日)

気仙沼舞根湾での潜水調査と気仙沼シンポジウム

沿岸資源管理学分野 准教授 益田 玲爾

 東日本大震災の2ヶ月後にあたる2011年5月21日から2ヶ月に1度の頻度で,気仙沼市舞根湾周辺において潜水による魚類相の調査を行っている.調査定点として,やや外洋に面した湾外,舞根湾の入り口付近(湾口),舞根湾内のガラモ場,および舞根湾奥部の4カ所を設定した.各調査定点で一定の範囲を観察し,出現する魚種とその体長および個体数を記録している.
 5月の調査時点では,海底は泥に覆われ,海藻にも泥がかぶっていた.ニジカジカ,アイナメ,アサヒアナハゼ,ウミタナゴ,タケギンポ(写真1),スジハゼ,ニクハゼが見られた.ニジカジカ以外はいずれも稚魚であった.このことから,津波の発生時には卵または仔魚として外洋にいたために生き残った魚が稚魚期に沿岸に加入して魚類相を形成していると考えられた.また,本来は比較的深い海に生息するニジカジカが津波により浅所へ運ばれてきた可能性が示唆された.7月には,海底の泥は減り,魚の数も増えていた.前回とほぼ同様の魚種に加えて,リュウグウハゼが多く見られた.また,先に見られたアイナメやアサヒアナハゼなどの稚魚は順調に成長していた.
 9月には,これまでに記録された魚に加えて,暖温帯域で普通に見られるボラ,マアジ,イシダイ,クロダイ,コブダイ,ヒメジなどの魚種も出現した.震災以前に優占していたと考えられるメバルやクロソイなどの磯魚類が津波によって一掃され,空いた生態的地位を暖温帯由来の魚が一時的に占めているものと考えられた.
 11月には水温も低下し,暖温帯の魚種がいなくなったため,魚種数はやや減少した.従来も見られたスジハゼやリュウグウハゼに加え,アイナメの大型個体が見られた.また,キヌバリやウミタナゴの個体数は極めて多くなった(写真2).競合種であり捕食者ともなりうるメバルやクロソイのいないことによって,キヌバリの生残率が高まり,巨大な群れを形成するに至ったと考えられる.
 翌1月には7℃,3月には4℃の海底水温で潜水調査を行った.ガラモ場には相当な数のキヌバリが生息しているものの不活発であり,ホンダワラ類の中に隠れる個体が多かった.1月には湾奥の浅所でマガレイが,また3月には複数種類の仔魚が見られた.魚類相は震災以降,着実な回復が認められるとはいえ,まだ遷移の途中と考えられ,今後も継続した調査が必要である.
 一連の調査の成果については,東日本大震災の約1年後となる2012年3月13日,宮城県の気仙沼市民会館において開催された「海は森の恋人シンポジウム 海と共に生きる —震災復興と森は海の恋人運動—」で講演した.同シンポジウムには,一般市民や行政関係者に加えて,同地域で活動しているボランティアら計150名程度の来聴者があった.
 気仙沼を含む東北地方沿岸では,津波への対策として大規模な防潮堤建設の計画が進められているという.しかし,気仙沼市民の多くは,防潮堤の建設よりも高台への住居移転を望んでおり,地盤沈下の進んだ汀は干潟へと戻そうとの合意も進みつつある.被災地の逆境は,人と自然とのあるべき姿を考え,より善い方向へと舵取りする機会ともなりうる.東北地方の復興と飛躍に,自然科学の視点から寄与できればと思う.

年報9号  2012年10月 p.6