里海生態保全学分野 山下 洋
フィールド科学教育研究センターでは、全学共通科目として後期金曜日3時限目に「森里海連環学」、4時限目に「海域・陸域統合管理論」をリレー講義形式で提供している。前者では、森から海までのつながりについて、多様な分野から12名の講師が1回ずつ講義を行った。4時限目の「海域・陸域統合管理論」では、経済や法律などの社会的背景を含めた森から海までの環境管理について、学内外の6名の講師が講義を受け持った。講義の最終日(13回目)である平成18年1月27日には、両講義の垣根を取り払って、午後1時から4時まで両科目合同のパネルディスカッション形式の講義を実施した。パネルディスカッションには、受講生と講義の講師陣に加えて、森林科学や海洋科学を研究する大学院生と教員が参加した。また、本講義の取材をされている朝日新聞大峯伸之論説委員にも参加いただいた。最初のパネラーとして、「海域・陸域統合管理論」の非常勤講師でもある松田治広島大学名誉教授から、瀬戸内海の環境管理と再生について問題提起があった。とくに、現存するダムやコンクリート護岸を撤去して自然に戻すことや、自然環境の再生に税金を使うことなどに関して、活発な意見が出された。2番目のパネラーである北海道林業試験場の長坂晶子研究員は、北海道で自らが参加する、森から海へ運ばれる有機物量の推定に関するプロジェクトの成果を紹介した。この中で、森林が本当に減っているのかという問題が提起され、森林の量だけでなく河畔林の幅など質的な視点の重要性が強調された。パネルディスカッション形式の講義というのは、全国的に見ても珍しい試みである。受講生の多くは1回生であり、討論に参加した経験もほとんど無かったと思われる。討論の中心はパネラーと教員間になりがちであったが、徐々に雰囲気に慣れ積極的に発言する学生もみられた。両講義では、毎回最後に試験を行うか感想を書かせている。文章として書かせると、個性あふれるアイデアや回答が寄せられるが、口頭で質問してもなかなか意見が出ない傾向がある。多人数の中で、自分のオリジナルな考えを言葉に出して、正確に相手に伝える訓練の入門としても、意義のある講義になったと評価している。
なお、「海域・陸域統合管理論」は日本財団調査研究事業の助成を受けた。この場を借りてお礼申し上げたい。
ニュースレター7号 2006年3月 教育ノート