フィールド研設立10周年にあたって

京都大学名誉教授・初代副センター長 竹内 典之


 森と川と海のつながりに人と自然の共存原理を求める新しい統合学問「森里海連環学」を創生し、安心・安全で持続的発展が可能な社会の構築に寄与することを目標として、2003年4月に京都大学フィールド科学教育研究センターが設立されてから、早や10年が経過した。私がフィールド研に在籍したのは設立直後の4年間であったが、極めて慌ただしい日々であった。この時期に、研究面では由良川、古座川、仁淀川における流域研究が開始され、教育面では農学部、農学研究科、理学部、理学研究科との調整や、少人数セミナー、リレー講義「森里海連環学」「海域・陸域統合管理論」など全学共通科目の提供を始めた。また、フィールド研の重要な機能の一つである社会連携では、「時計台対話集会」など公開のシンポジウムを次々に開催した。
 最も印象に残っているのは、初めて全教職員が一体となって成功させた京都大学総合博物館春季企画展「森と里と海のつながり- 京大フィールド研の挑戦」(2004年6月2日から8月29日)とこれに連動させた「時計台対話集会」(2004年7月17日と24日)である。企画展では、田中センター長の陣頭指揮のもとで目指した「見学者1万人」は、教員が交代で担当した博物館での「レクチャー&ガイド」など努力の積み重ねによって達成された。また、時計台対話集会「森と里と海のつながり-“心に森”を築く」は、延べ1,000人以上の参加者があった。
 また、少人数セミナー受講者からの「私は今まで道端の草や木や虫には全く無関心でした。でも、セミナーを受けてから道端の草花や木々や昆虫や小鳥たちにさかんに目が行くようになりました。私の自然を見る目・自然観が大きく変わったのだと思います。」とのメールは、生涯忘れられない記憶として残るであろう。
 フィールド研は、この10年で大きな足跡を残してきた。「森里海連環学」、「森と里と海のつながりの回復」の重要性が多くの市民に認識されるようになり、彼らの心に“木”を植え付けてきた。現在進行している環境省の三陸復興プロジェクトのスローガンは、「森・里・川・海つながる自然つながる未来」である。「森里海の連環」は、様々な地域、様々な分野での活動のキーワードになってきている。フィールド研のこれからの活動とは、流域研究等で蓄積してきた知見をもとに、多くの市民が心に植えた“木”を着実に育てていくことではないでしょうか。
 私(たち)は、これからもフィールド研の応援団として応援を続けるとともに応援団員の裾野を広げていきたいと思っています。

ニュースレター31号 2013年11月