全国源流域河川水質調査 「山の健康診断」のご紹介

森林育成学分野 德地 直子

 森林をはじめとした山地、河川は今どんな様子なのでしょうか。自然の豊かさで注目されている場所や、何かの調査対象となった場所では情報があるのですが、そうではない場所については情報がないところが多いのが現状です。私たちは自然に依存して暮らしているわけですから、生態系の状態をモニタリングして、壊してしまわないように大切に使わなければなりません。そうは言っても、広大な森や山をどう扱うか、そして全国の森や山すべてを調査するにはかなりの労力と経費が必要です。
 市民と研究者が協働して研究試料を収集するような形を市民科学(シチズンサイエンス)と呼びます。「山の健康診断」は、川の水質を指標に森や山の様子を推察しようと、上流に人為起源の汚染源がない場所を各県20-30地点選び、河川水の採水と分析を行うものです。河川水は山に降った雨や雪が森林を通過して形成されており、河川水質調査は山や森にとって、人でいう尿検査のような位置づけになります。今回の調査は2003年に行われた1278地点(木平ら2006)の20年後の再調査としました。そこで、2020年に包括連携協定を結んだアウトドアブランドの株式会社モンベルにご協力いただき、全国のモンベル会員の皆さまに採水への参加を呼び掛けていただきました。その結果、2022年6月1日〜11月30日の半年間で629人の方々と1431地点で採水を行うことができました。採水にご協力いただき本当にありがとうございました。
 分析はまだ途中ですが、河川水のpHや硝酸態窒素濃度などに20年前と大きな違いはなかったようです。ただ、都市周辺で湖水や沿岸の富栄養化の原因となる窒素濃度が低下していたのに対して、若干の上昇がみられた地域もあり、残りの分析を進めると同時に、これらの原因について検討していく予定です。

(引用)木平英一ら(2006)わが国の渓流水質の広域調査.日本水文科学会誌 第36巻、第3号、145-149
DOI: 10.4145/jahs.36.145

(参考) 山の健康診断 報告会の映像をご覧いただけます

ニュースレター60号 2023年6月

年報20号 2022年度 主な取り組み