実験所による紹介ページはこちらです。(2015-11-16 追記 2016-01-14 uri変更)
(年報8号における紹介記事)
瀬戸臨海実験所所蔵標本のデータベース化
海洋生物系統分類学分野 助教 大和 茂之
2008年度から2010年度にかけて,独立行政法人 科学技術振興機構の補助を受け,生物多様性情報データベース作成課題のひとつとして,「京都大学瀬戸臨海実験所所蔵標本データベース」を作成した。この事業は,地球規模生物多様性情報機構(The Global Biodiversity Information Facility: GBIF)による国際的科学協力プロジェクトでもある。
本事業によって,瀬戸臨海実験所所蔵の生物標本のかなりの部分が,世界共通のGBIF フォーマットに準拠して生物種名や採集地などの標本情報がデータベース化され,分散型のデータベース・ネットワークであるGBIFの一部として広く公開されることになった。その内訳は,タイプ標本シリーズ419点,貴重標本シリーズ273点,八放サンゴ類838点,イシサンゴ類1,024点,多毛類 170点,蔓脚類217点,十脚類 531点,ウミグモ類81点,ツルクモヒトデ類142点,ホヤ類78点,海藻類3,721点で,合計7,494点になる。
これらの標本は,瀬戸臨海実験所が1922年に創設されて以来蓄積されてきたものであり,特に世界的な分類学者である内海冨士夫,時岡隆が在職中に研究標本として残したものが多数含まれている。中でも,新種記載などに用いられたタイプ標本や,論文で使用された証拠標本や海外から分類学的検討のために集められた標本などを含む貴重標本シリーズは,特に大切に管理されてきた。それらに加えて,その他の分類群毎の標本においても,論文で言及された証拠標本を多数含んでいることが,今回の調査で明らかになった。
瀬戸臨海実験所では,原田英司元所長の在職当時から標本のデータベース化を進めており,1991年にはタイプ標本のリストが出版され,実験所のホームページでも公開してきた。しかし,タイプ標本以外の標本については,研究者の退職や建物の建て替えによる移動などで,充分に整理されていなかった。今回の作業によって,これら未整理の標本を掘り起こすことができただけでなく,発表論文と照合することによって,その学術的価値が高められた。登録標本の点数としては7500点と多くはないが,分類学の研究標本として,学問的に配慮された取り扱いになったものと考えている。
これらの作業は,研究分担者となった瀬戸臨海実験所教員および技術職員のみならず,多くの研究者の協力の下に行われた。特に,今原幸光・岩瀬文人(黒潮生物研究所)・松本亜沙子(千葉工業大学および麗澤大学)・岡西政典(東京大学)・伊谷行(高知大学)の各氏には,実験所にお越しいただいて標本の確認や分類の再検討,データの入力などに尽力いただいた。また,西川輝昭(東邦大学)・鰺坂哲朗(京都大学)の両氏には,データ全般に関する貴重なアドバイスを受けた。なお,研究代表者は,2009年度の途中までは伊勢戸徹特定助教が,その後は大和が担当し,データ全般のとりまとめを行った。
今回の作業で,多くの標本群がほぼ完全に整理されたが,未解決の標本については,引き続き関連研究者から協力を得られることとなっている。また,瀬戸臨海実験所で現在行われている研究で扱われた標本についても,今回の登録フォーマットに従って登録を進めていく予定である。海洋生物標本のコレクションとして,瀬戸臨海実験所が対外的に誇れるものとなるよう,今後もデータベースの充実に努力していきたい。
年報 8号 2011年12月 p.8