木文化プロジェクト2年目報告

里山資源保全学分野 教授 柴田 昌三


 2009年度から文部科学省の概算要求事業(プロジェクト分)として本格始動した木文化プロジェクト(正式名称は「森里海連環学による地域循環木文化社会創出事業」)は2年目を迎えた。2010年度はプロジェクト開始以前から徐々に蓄積してきたデータや基盤を築くことに終始してきた初年度の成果を踏まえて,その展開を開始した年であったといえる。対象としている京都府由良川水系と高知県仁淀川水系のそれぞれにおける2010年度の進捗状況は以下のとおりである。
 由良川水系では,当初想定していた河内谷支流水系における人工林の間伐施業とそれに伴う生態系の推移に関する調査計画を断念することとなった。これはフィールド研が考えていたシナリオと,協力をお願いしていた京都府及び森と緑の公社のシナリオがうまく整合できなかったことが大きな原因であり,フィールド研としては計画の甘さを反省せざるを得ない結果となった。河内谷に代わる対象としては芦生研究林下谷に白羽の矢を立て,計画の練り直しとその実践に向けた活動が行われたのが2010年度であり,量水堰の設置と,水質及び水量に関する調査を開始した。
 仁淀川水系では,対象の吉ヶ成支流水系で,作業道の作設と作業道に沿った間伐が進んだ。また,植生,水圏生物相,水質調査のための定点では調査を継続した。間伐作業の進捗は想定よりは遅れたが,作業道の作設は予定通り進められた。林業施業を継続していただいた池川林産企業組合には,心から感謝する次第である。作業道の先端は地域の聖域であるガラクと呼ばれる地域の近傍まで届いた。高齢化が進む地元の方々には,車で再びガラクに行ける可能性が高まったことで,大きな期待を集めている。また,2011年度早々には,仁淀川町長もここを視察に訪れたという。仁淀川の広域に関する調査では,共同研究協定のもとに,高知県の研究機関からの多大なるご支援をいただいている。植生調査に関しては県森林技術センター,水圏生物相と水質調査に関しては県環境研究センターと地元NPO団体である「仁淀川の”緑と清流”を再生する会」のご協力を得ている。
 2010年度は,これらの自然科学的調査に加えて,社会科学的調査として,両流域における住民の意識調査も行った。対象としたのは,両流域とも,上流域,中流域,下流域の三地域である。2010年度の意識調査は主として,木材資源に対する住民の意識の把握であった。
 得られたさまざまな調査結果は,いずれの流域においても,日本財団の支援のもと,地域連携講座として,発信した。講座は,由良川流域では12月5日に京都府福知山市で,仁淀川流域では10月30日に高知市内で開催した。また,京都においては例年行っている時計台対話集会の場(2010年度は11月20日に第7回を開催)で,その成果を報告した。

年報8号  2010年12月 p.10