里海生態保全学分野 益田 玲爾
舞鶴水産実験所では、教育関係共同利用拠点事業の一環として、他大学の学生を積極的に受入れています。本稿では、2014年に卒業研究生として滞在した名城大学農学部の近藤桜さんの例について紹介します。
近藤さんが初めて舞鶴水産実験所を訪れたのは、2013年の9月、彼女が3回生の時で、当実験所の主催する公開実習に参加するためでした。この実習を通して、舞鶴の施設で研究をしてみたいという希望を持つようになり、所属研究室の教授とも相談の上、卒業研究に関わる実験を当所で行うことにしました。
学生を指導する際、私が最初にたずねるのは、「卒業してからどうしたいか」ということです。これは、明確な目的意識を持つことによって、同じ学生生活でも過ごす時間の質がまったく違ってくると思うからです。この問いに対する近藤さんの答えは明確で、「水族館で働きたい」とのことでした。
それでは水族館での仕事につながりそうなことを、と考えてすすめたのが、「カワハギによるクラゲ摂餌の水温依存」というテーマです。カワハギがミズクラゲやエチゼンクラゲを旺盛に食べることは、当研究室の大学院生によりすでに示されていました。これを発展させて、他にどんな種類のクラゲをどれくらいの水温でよく食べるのかを調べたのが彼女の研究です。
近藤さんは夏には各地の水族館でのインターンを予定していたため、飼育実験を春に行いたいという希望もありました。そこで、春から初夏に出現するクラゲを片端からカワハギに与え、その際、水温を変化させて、クラゲ摂餌の有無を観察しました。その結果、カワハギは小さなキタヒラクラゲやカミクラゲ、猛毒を持つアカクラゲ、さらにはクシクラゲ類など、ゼラチン質の生物を何でも食べること、また水温約15℃以上では摂餌量が急激に増えることが明らかとなりました。
ひどく雪の降った12月のある日、卒論のとりまとめのために近藤さんが久しぶりに舞鶴を訪れました。その時点では就職が決まっておらず不安そうでしたが、名古屋の下宿に戻ったら、海遊館から採用通知が届いていたとのこと。海遊館は言うまでもなく日本を代表する水族館の一つであり、その目玉とも言えるのが(異論はあるかもしれませんが)マンボウです。そしてマンボウの主食がクラゲであることは、クラゲ関係者およびマンボウ関係者の間ではよく知られています。舞鶴での経験を、ぜひ水族館の現場で活かして欲しいです。
ニュースレター35号 2015年2月 教育ノート